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川崎医科大学呼吸器外科の診療紹介

 

当科で治療を行う疾患と特徴

 

 呼吸器外科では、以下の疾患をはじめとして、肺や胸膜、横隔膜、縦隔、胸壁の疾患を対象として診療を行っています。

  • ● 原発性肺癌
  • ● 転移性肺腫瘍
  • ● 悪性胸膜中皮腫
  • ● 縦隔腫瘍(胸腺腫、神経原性腫瘍、重症筋無力症など)
  • ● 自然気胸
  • ● 膿胸

 最近では呼吸器外科で行う手術は、胸腔鏡というカメラを胸の中に挿入してテレビモニターに映し出される画面を見ながら行う『胸腔鏡手術(VATS)』が一般的です。当科でも原発性肺癌をはじめとしてほぼ全ての疾患に対して胸腔鏡を用いた手術を行っています。2015年からは3D内視鏡システムを導入して、より精度の高い胸腔鏡手術を行うことが可能となりました。

 一方、臨床病期II期以上の進行癌に対しては胸腔鏡と小開胸(6〜10cm程度の皮膚切開)を併用して、根治性と安全性を保ちつつ、より低侵襲な手術を心掛けています。

診療内容と特徴

1.原発性肺癌

 原発性肺癌の治療は、進行度(病期)と患者さんの年齢や全身状態に応じて治療方針が決まります。当院では、呼吸器内科・外科・放射線科 (画像診断部,放射線治療部)による合同カンファレンスでそれぞれの患者さんに最適な治療方法を決定しています。臨床病期I〜III期の患者さんが手術の対象となりますが、多くの患者さんには化学療法・放射線療法を組み合わせた集学的治療を行い、より根治性の高い治療を提供しています。

 原発性肺癌に対する手術は、そのほとんどを胸腔鏡手術で行っています。そのうち、臨床病期I期(癌の大きさが3cm以下で、リンパ節への転移がないと判断される場合)に対しては、原則として3D内視鏡システムを用いた完全鏡視下手術(4〜5cmの傷が1つと、1〜2cmの傷が2つ)を行っています。一方、臨床病期II期(癌の大きさが3cm以上、またはリンパ節への転移が疑われる場合)以上の進行癌に対しては、胸腔鏡と小開胸(6〜8cm程度の皮膚切開)を併用して、根治性と安全性を保ちつつ、より低侵襲な手術を心掛けています。

 また、当科は多施設共同臨床試験を行うグループ(西日本がん研究機構(WJOG)、瀬戸内肺癌研究会)に参加しており、国内主要施設と共同で行う臨床試験を積極的に行っており、肺癌治療の向上に努めています。

 

 2010年4月に呼吸器外科が新設されて以来、原発性肺癌に対する手術において治療関連死亡 (在院死亡)は1例もありません。術前に化学療法・化学放射線療法を行った後に手術を行う局所進行肺癌に対する拡大手術や、高齢者(最近5年間では手術を受けられる患者さんの約20%が80歳以上で、最高齢は90歳2ヵ月です)や心臓病・腎臓病・膠原病・糖尿病などの合併疾患を有する患者さんに対するハイリスクな手術も含めて、個々の患者さんの状態・病状に応じた適切な治療を安全に提供しています。

 これまで手術による治療が困難とされてきた局所進行肺癌に対しては、 手術前に化学療法や化学放射線療法を行い(これを術前導入療法と言います)、がんやリンパ節転移が縮小した後に手術を行っています。下に示します@〜Bは、 当科で化学療法・放射線療法の後に手術を行った局所進行肺癌のCT・PET-CT検査の画像です。それぞれ左側が治療前の状態、右側が術前導入療法後の状態です。がんとそのリンパ節転移(上段;赤い部分、下段;黒い部分)が小さくなり、その後に手術により完全切除が行えました。

 肺癌は日本人のがんによる死亡原因の第一位で、手術により完全切除が行われた場合でも、その後に再発することがあります。不幸にして手術後に再発した場合も、当科ではがん薬物療法専門医を中心にして、適切な薬物療法を提供しています。抗がん剤や分子標的薬のほか、近年肺癌に対して保険適応となった免疫チェックポイント阻害薬も適正に使用して治療を行っています。

 

2.転移性肺腫瘍

 大腸癌、頭頸部癌、腎癌、乳癌、肝癌、子宮癌などあらゆる癌の肺転移を対象として、主診療科と相談の上、手術を行っています。近年では、抗癌剤や分子標的薬など化学療法の進歩に伴い、転移性肺腫瘍に対する手術適応は拡大しています。

 転移性肺腫瘍に対する手術は、胸腔鏡下肺部分切除術を原則としています。

 

 

3.縦隔腫瘍(主に胸腺腫)

 縦隔とは左右の肺と胸椎、胸骨に囲まれた部分です。縦隔にできる腫瘍の多くは胸腺腫です。胸腺腫に対する治療の第一選択は外科的切除で、従来から胸骨正中切開による胸腺腫と胸腺組織・周囲脂肪組織を一塊として切除する拡大胸腺全摘術が行われてきました。近年では、CTなど画像診断技術の進歩により、より小さな腫瘍が発見・診断されるようになり、胸腔鏡下拡大胸腺全摘や胸腺部分切除というより低侵襲な手術により同様の根治性が得られることが分かってきています。

 当科では胸腔鏡手術から胸骨正中切開による拡大手術(隣接臓器に浸潤している場合には合併切除・再建など)まで、腫瘍の大きさや進行度、患者さんの状態に応じて適切な手術を提供しています。

 

 

4.自然気胸

 肺の表面にできたBulla(ブラ)の破裂により肺が虚脱して、胸痛や呼吸困難などを生じる疾患です。患者さんの多くは、若年(20〜30歳代)のやせた男性と高齢の重喫煙者です。症状や程度に応じて安静や胸腔ドレナージ、胸腔鏡下手術などから適切な治療法を行います。手術適応となるのは、再発を繰り返す場合、保存的治療(胸腔ドレナージ)によっても病状が改善しない場合、両側性の場合、血胸(胸腔内出血)を伴う場合などです。

 

 

5.膿胸

 胸腔内に膿が溜まる状態で、高齢者や糖尿病、ステロイド治療を行っている場合など免疫力が低下した患者さんに多くみられます。膿胸に対する初期治療は胸腔ドレナージと抗菌薬治療ですが、1週間程度で改善・治癒しない場合、膿胸が慢性化してしまいます。社会の高齢化に伴い、手術が必要となる膿胸の患者さんが近年増加しています。当院では呼吸器内科との連携体制が整っており、保存的治療で改善が乏しい場合には早期に手術(胸腔鏡下胸腔内掻爬術)を行い、低侵襲でかつ早期の治癒を目指しています。

 

 

6.その他

 抗菌薬治療が無効な難治性の慢性肺感染症(肺非結核性抗酸菌症、肺真菌症、肺膿瘍など)も外科手術の対象となります。また頻度は少ないですが、石綿(アスベスト)暴露が原因となる悪性胸膜中皮腫、胸壁悪性腫瘍(肋骨・肋軟骨原発の肉腫)、気管狭窄に対する気管支ステントなどの気管支内治療、胸部外傷などに対しても専門的な治療を行っています。