先輩からのアドバイス

川崎医科大学附属病院の卒後臨床研修の伝統を作り上げてこられた立場から、その歴史と、目指す道について文章をお寄せいただきました。

優秀な研修医は恥ずかしがらずにメモを取る

  • 川崎医科大学卒業

  • 川崎医科大学附属病院にて外科系ジュニアレジデント修了。
  • 川崎医科大学大学院、内分泌外科(現在の乳腺甲状腺外科)シニアレジデントを経て同科臨床助手。昭和59年から大阪府立成人病センターで消化器がん外科治療の研鑽、昭和64年同第1外科医長。平成15年に市立伊丹病院に異動し、外科主任部長、副院長を経て、平成19年から現職。

私が受けた外科系研修とは、消化器外科・胸部心臓血管外科・内分泌外科・整形外科・脳神経外科・麻酔科をローテーションするというものでした。当時は、卒後研修においてこのようなローテーションが組まれた病院はなかったと思います。大学病院ですが、全国的にもめずらしい救急部がすでに開設されていましたので、市中病院並みの救急研修も受けられました。毎年、年末年始の休みには緊急手術があり、ゆっくり正月を過ごしたことはありません。しかし、このときのことは今でも鮮明に覚えており、術後に患者さんから感謝されたことは、外科勤務医を続ける原動力になっているような気がします。

大学院、臨床助手を経て、教授の勧めで大阪のがん専門病院にレジデントとして勤務することになり、かなり不安を抱きつつ着任しましたが、優秀でしかも親切な同僚や先輩に恵まれたのは幸いでした。1年後には外科診療主任として採用していただき、後輩の指導にも従事することとなりました。外科には大阪大学の医局から毎年レジデントが二人ずつ派遣されてきており、出身大学も性格も勤務態度も様々ですが、私はある法則に気付きました。優秀なレジデントは、すぐにメモを取る。一度聞いたことは、二度と聞かなくてもよいように記録する。おそらく、書くことにより覚えてしまうのでしょうが、備忘録があれば、万が一忘れても大丈夫。最も驚いたのは、まだ留学していないのにネイティブのような流暢な英会話ができ、医学に関して高い知識を持っているレジデントが、私の教えたことを素早く目の前で堂々とメモを取っている姿でした。私自身、あまりメモを取らないほうだったので、この姿を見て大いに反省しました。皆さん、メモを取るのは恥ずかしいと思っていませんか?取らないのは一生の恥になりますよ。しっかりメモを取り、同じことは繰り返して尋ねないようにしましょう。

平成16年からの新医師臨床研修制度は、いろいろな影響をもたらしていますが、その1つに学位離れが挙げられるでしょう。学位不要という趨勢は昭和40年にも起こっていますが、現在とは理由が異なります。学位よりも専門医のほうが臨床医にとっては重要という考え、学位があっても収入に反映されないじゃないか、などいろんな意見があるようです。私は、学位を取得することはいいことだと思っています。ただし、学位を取ることが目的ではなく、生涯、研究に何らかの形で参加することが重要で、その方法を学位取得の過程により学ぶことだと思います。皆さんが専門医の資格を取るときに種々のエビデンスを学習しますが、そのエビデンスは誰がどのように作っているのでしょうか?他人が作ったエビデンスの恩恵をこうむるばかりではなく、自分もエビデンスを作る立場になろうとは思いませんか?私は卒後25年以上経過してからも、著者としてあるいは共著者として論文を発表してきました(Surgery 129:335-340,2001. Lancet Oncol 7:644-651,2006. N Engl J Med 359:453-462,2008.)。これらの中には、重要なエビデンスとして診療ガイドラインに採用されているものもあります。長い一生のうちのほんの数年、学位取得に時間を割いても無駄にはならないと思います。新医師臨床研修制度により、市中病院での研修を希望する医師が増加し、全国的に大学離れが指摘されていますが、川崎医大附属病院は30年以上前から先進的な制度により優秀な医師を育成してこられました。ぜひ、川崎医大附属病院で初期臨床研修を受け、できれば引き続き大学院への進学も選択していただきたいと願っております。

優秀な医者になるコツは、たったの3つ

  • 東京医科大学 医学教育学講座 教授

一流の医師になるコツは存外シンプルで、1つが、“良い指導者に就くこと”で、2つ目が、“医師になって最初の5年は、死に物狂いで働くこと”です。

日本では臨床研修制度が導入され、2年間研修病院でローテーション式の研修を行うことは決まっていますが、残念ながら具体的な知識や技能についての到達目標は曖昧です。後期臨床研修にいたっては何の研修計画もないのが実状です。それでも医師間で技量に明らかに差がつくのは、“誰に就いたか”の差であると断言しても過言ではありません。医師の知識や技術の修練はすべて「徒弟制度」であり、例えば採血1つをとっても、医師になり最初に就いた指導者に教わった方法で一生行うものです。最初の指導者とは、診断法、マネージメントの仕方、ムンテラの言い回し、医師としての行動規範、果ては歩き方まで自然と似てくるものです。初期臨床研修や後期臨床研修先を選ぶ時には、できるだけ教育的な指導者のいる施設を選びましょう。自分を鍛えて、一人前の医師に鍛えてくれそうな指導者に就きましょう。探し方は簡単です。夏休みなどの休暇を利用して、自分の進みたい道で一流と言われる指導者たちに会ってみることです。どんな多忙な医師も、電話、メール、手紙1本で快く応じてくれます。会って人となりに触れ、この人と働きたい!と思う人の元に飛び込みましょう。医局員に当人の人柄や働きやすさを探ることも重要で、医局員が誉める上司は、間違いなく良い指導者です。

私は川崎医大で人体病理学のレジデントとして修練していた4年間は、1週間に100時間くらい働いていました。後に、横須賀米海軍病院(U.S. Naval Hospital Yokosuka)で勤務した時に、整形外科の上司が、同じ事を言うのを聞いて、身長190cm、英語はネイティブ、ハーバード大学卒業の男性でさえそうかと、身震いがしました。若い読者の皆さんが、同程度かそれ以上の努力なしに一流の医師になれるわけはありません。

徒弟制度とは、若いうちに年長者から怒られながら知識や技術を学ぶ仕組みです。若い時期を逃せば、年少の医師からは怒られませんから、学ぶ機会を失ってしまうのです。

医師には成績表はありません。上司に認められ、その世界で認められるうちに、口コミで人事が動くものです。始めの5年間死に物狂いで働けば、上司や誰かが必ず目を掛けてくれ、その人達の導きで道が拓けますから、その後の方向性やキャリアは自然に付いてきます。皆さんの評価基準は、医科大学を卒業するまでは、教えられたことを丸暗記してどれだけ吐き出すか、だけでした。医師になると、成績評価のルールが変わるのです。挨拶ができるか、コミュニケーションが取れるか、頼んだことはやり遂げるか、仕事が早いか、、、、、etc. いずれも学生時代には決して計られない評価軸が、研修医になったその日から一生涯適応されるのです。学生時代の成績など、働く仲間や上司は誰も気にもしていません。どんな大学を卒業したかとか性別など、今やほとんど問題とならなくなりました。医師としての学びは楽しいですよ。最初に良い指導者に付いて、5年間は死に物狂いでがんばって下さい。

そうそう、3番目のコツは、“良い伴侶を得ること”です。これは特に女性で重要です。男性が、自分のキャリアを高めたいという気持ちと、女性医師である妻が同じことを望む気持ちが等価であるという、基本的な思いやりがある賢い男性を選びましょう。どうするかって?それにはやはりコツがあるので、メールを下さい、別途相談に乗ります(笑)。(E-mail: mizumi@tokyo-med.ac.jp