教育と研究(自己評価と反省) 平成28年度版
 
教授  杉原  尚
教育重点及び概要

1)卒前教育
@血液病学に関連する系統別講義
 臨床実習開始前に行っており、良医を育てるべく、医師となるための意識改革と基本の力量を可能な限り厚くするのが目標である。まず導入として第2学年3学期には、臨床系ブロック入門3ユニットで血液病学を学ぶ上での基本を講義している。臨床系への導入である。血液病学に関する本格的な講義は、第3学年1学期に血液病学に関する系統講義(血液・造血器・リンパ系ユニット)を行った。当科がその多くを担当し、病理学教室が血液病理学の特徴を講義し、実習を担当した。血液学総論にはじまり、赤血球系、顆粒球系、リンパ系、出血凝固系における正常と異常を対比しながら講義を行った。44コマを使って、血液病学、病理学それぞれで講義していたものを"血液・造血器、リンパ系疾患"という名のもとに系統的に講義した。
 また、第4学年1学期には腫瘍ユニットにおいて「抗がん剤と薬力学」、感染症ユニットにおいて「HIV感染症・AIDS」、「移植と感染症」の講義を担当した。さらに第4学年2学期には薬物治療ユニットにおいて「血液作用薬」、検査診断・輸血ユニットにおいて「輸血」「造血幹細胞移植」、症候論ユニットにおいて「貧血・出血傾向・リンパ節腫脹」の講義を担当し、科横断的な側面から学生の学力強化に携わった。
A血液疾患の臨床実地研修
 第5学年には実際に患者を受持ち、臨床血液を実体験することを実施するとともに血液学の基礎を再確認すべく、赤血球系、顆粒球系、リンパ系、出血凝固系における正常と異常を講義でなく試問という形式で行った。臨床実地研修は学生1人で患者さん1人以上を受け持ってもらい、担当医が1人ずつ指導医としてつき、細かな指導を行った。特に診療録記載には重点をおき、可能な限り学生自身で考えさせる方針をとった。また毎朝の症例検討会では、各自受け持ち患者の経過、問題点、方針を発表させ、プレゼンテーション能力の向上を図った。
B血液病学の総合講義
 第6学年時に「臨床必修事項演習」、「血液学集中講義」を行っており、血液病学の整理と症候からの横断的アプローチを概説し、知識の整理を行った。具体的には、医師国家試験を意識し、問題からのアプローチと画像の解釈に重点を置いた。

2)卒後教育

 初期研修に関しては、卒後臨床研修システムに従った初期臨床研修プログラムが確立されており、卒後2年間はどの教室にも属さず、外科系を含めた各科を研修する。ここでは医療の基本的姿勢を教えるとともに、医師としての基本を教育しており、日本内科学会認定内科認定医、総合内科専門医取得の基礎を作り上げている。卒後3年目からは、日本血液学会の研修カリキュラムに従い血液専門医としての研修を行い、血液学会認定血液専門医、指導医取得の基礎教育を行っている。
○昨年度の自己点検・評価と課題
 教育には重きをおき、医局員全員が役割を分担し、各学年にあった教育を行っている。現在、大教室での講義から臨床実習への移行がスムースではなく、臨床実習が第3、4学年の焼き直しになっている。得た知識を実際の臨床に生かす教育に工夫が必要と考えている。平成28年度から診療参加型臨床実習のカリキュラムが変更されており、期待するところである。
 卒後教育に関しては、現在日本専門医機構が各領域の専門医制度の再構築を行っている。2019年からは内科系は日本内科学会の内科認定医試験を廃止し、総合内科専門医を最初のステップとして次の段階に内科系各学会の専門医が位置づけられる予定である。従って卒後3年目以降の内科医としての教育を再考せざるを得ない。すなわち現在の卒後3年目以降の各領域に特化した専門医教育を再構築し、内科医としての基礎が分厚い血液専門医を育てたく思っている。

研究分野及び主要研究テーマ

1)赤血球の研究
 血液内科教室発足以来、赤血球を主要テーマとして研究が行われてきた。この分野で学位取得、研究を継続してきたスタッフがおり、赤血球膜異常症の継続研究を行っている。
 主として、走査電顕(SEM)による赤血球形態解析、赤血球EMA結合能や赤血球膜蛋白解析によって赤血球膜異常症を同定し、異常膜蛋白の遺伝子解析によって赤血球膜異常症の病因・病態の解明を目的とした研究を行っている。また検査診断学教室と協力して、遺伝性球状赤血球症における赤血球膜EMA結合能試験の診断検査としての有用性の検討や、他の赤血球膜異常症における赤血球膜EMA結合能の動態を解析している。これらの研究によって、我が国における赤血球膜異常症の診療に貢献していきたい。
2)造血器悪性腫瘍の研究
 急性白血病や骨髄増殖性腫瘍の分子遺伝学的病態解析、多発性骨髄腫や慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫を中心とした治療研究を行っている。特に骨髄増殖性腫瘍における遺伝子学的診断法の確立と臨床像の解明、慢性骨髄性白血病における分子標的治療薬の薬理動態と治療効果の関連性などについて他施設との共同研究を実施している。これらの結果をふまえて、本学における集学的治療の確立と学外に向けた情報発信を推進していきたい。
3)造血細胞移植
 当科では、平成28年3月末で199例の同種造血幹細胞移植を施行している。特に臍帯血移植は高齢者を主体に136例と多数の症例を経験しており、これらの症例の解析を通じてさらなる移植成績の向上を目指したい。骨髄内臍帯血ミニ移植の様な生着までの期間を短縮させる新しい方法論や、難治例に対する HLA半合致移植などの取り組み、また国内多施設共同臨床試験への積極的な参加を通じて新規治療の確立に寄与したい。
4) HIV/AIDSの臨床研究
 当大学附属病院は岡山県におけるエイズ治療中核拠点病院である。また、「岡山HIV診療ネットワーク」の代表病院でもある。四国地方における基幹病院のひとつとして高度なHIV診療を実践し、豊富な臨床経験の中から新知見を発掘して公表してきた。具体的な臨床研究テーマとしては、「急性HIV感染症の病態」、「HIV関連神経認知疾患(HAND)に関する疫学研究」、「抗HIV薬による脂質代謝異常」などが挙げられる。また、「新規第4世代HIV迅速診断試薬の性能評価」については、多大な成果を上げ、情報を発信することができた。
○昨年度の自己点検・評価と課題
 基礎研究、臨床研究共にある程度の成果が上げられたが、まだまだ不十分である。日々の臨床活動に時間をとられてか、大学人としての研究が不足している。学会発表はするものの、論文として残っておらず大いに反省すべき点である。中堅教員にはプロジェクト、外部資金に挑戦することを義務化した。意識改革につながることを期待している。若い人材の確保・育成に努めると共に、スタッフ個々の意識向上に努めたい。

今年度の方策

 全国的に血液内科の分野では若い人材が少なく、大きな問題となっている。血液学会の会員数は年々減少し、かつて1万人近くであったのが、現在7,000人台である。屋根瓦方式の教育システムを構築するためには、今年度最低1名の入局者の確保に努める。
 学部教育に関しては大学の授業評価システムから多くの情報、学生の声が得られるようになり年々改善が重ねられており継続する。また今年度も講義担当者、実習担当者個々に自己評価を求める。
 卒後教育に関しては、専門医制度が大きく変わろうとしている。卒後早期からの専門医に特化した教育ではなく、内科医としての教育を再考し、基礎の分厚い内科医育成、その上での血液専門医育成を図りたい。また、総合内科専門医受験有資格者には受験させ、資格取得を支援する。
 研究に関しては、基礎研究や臨床研究におけるアカデミアが果たす役割を再認識させ、個々の意識改革を図りたい。総会では各グループから最低1演題の臨床研究発表を義務とする。
 しかしながら現在のスタッフで、満足いく教育、研究、診療をこなすにはまだまだ個々の負担が大きく、意識改革を含めた教室スタッフの充実・成長が重要である。現在の若い医局員が順調に育つことを期待するとともに、留学・学外研修を含め大きく飛躍することに努力を惜しまないつもりである。