「実験医学」14(8): 1185-1191, 1996より
四肢形成;付属肢;鰭;位置価;Hoxコード;Hox: クラスター構造をとるANT-C/BX-C型のホメオボックス遺伝子の総称; AbdB: Abdominal-B; Shh: Sonic hedgehog (Vertebrate hedgehog-1); FGF: fibroblast growth factor(線維芽細胞増殖因子); BMP: bone morphogenetic protein(骨形成因子); Wnt: wingless, int-1に類似の分泌タンパク質; AER: apical ectodermal ridge(頂堤); ZPA: zone of polarizing activity(極性化領域); Msx: muscle segment homeoboxに類似のホメオボックス遺伝子; LIM/HD: lin-11, mec-3, islet-1にコードされている保存されたLIMドメインとホメオドメインをもつタンパク質
四肢は魚類の対鰭の相同器官であり,その原器(肢芽,鰭芽)ではHoxA,HoxDクラスターのうちAbdBサブグループに属する9〜13のパラログが位置特異的に発現している.これらのHox遺伝子はその欠失または過剰発現の効果から四肢パターンの決定に重要な役割を演じていることが示された.これらは四肢の骨の分岐,分節による遠近軸でのパターン決定に関係している.骨格のパターンを決める軟骨分化にはCart1,Prx1などのホメオボックス遺伝子が関与し,Prx1の欠失によって四肢の骨に異常が現れる.上皮ー間葉相互作用を反映するMsx1,Msx2も軟骨分化に関係し,これらの肢芽間葉での発現は外皮からの誘導シグナルによって調節される.また,背腹のパターンはLIMドメインをもつホメオボックス遺伝子の1つ,Lmx1によって背側優位に支配されている.これらの肢芽での位置特異的な発現にはShh,Wnt,BMP,FGFなどのファミリーの分泌タンパク質が誘導因子として作用する.
四肢の形態形成は発生学の重要課題であるパターン形成と位置情報に関する問題点を提起し,それを解決することのできる実験系の1つである.四足類の体の側方にできる付属器官である前肢,後肢はそれぞれ魚類の胸鰭,腹鰭の相同器官であると考えられ,条鰭魚類では鰭先端部の構造が多数に分岐した鰭条になり,一方現存四足類では5本を基本とする指になる.その中間型はデボン紀の化石に見られ,肉鰭類の中の扇鰭魚類に分類されているEustenopteronなどではすでに前腕の骨の分化が認められ,原始的両生類のAcanthostega,Ichthyostegaではそれに加えて自脚のパターンが決められてくる(図1).Acanthostega,Ichthyostegaは現存の四足類の直接の先祖ではないが,指の数が7〜8本ありそのパターンは多指になっている.四肢と鰭が進化の過程で分岐する際に先端部の自脚は多様な形態を取っていたが,5本指型に由来する現存種以外は絶滅した. 四肢パターンは大まかにはHox遺伝子によって規定される.前後軸のパターンは後部のシグナルセンターZPAに由来するShhにより優位に支配され1),一方遠近軸のパターンは先端部のAERシグナルであるFGF,BMPなどによって影響される.その結果HoxA,HoxDの肢芽での位置特異的発現パターンが決定される.しかし,肢芽での位置価はHoxAが遠近軸のパターンを,HoxDが前後軸のパターンを支配するという単純なHoxコードによって決められるのではない.事実,HoxAとHoxDのノックアウトマウスでの結果は先端部の指骨,中手骨,手根骨のパターンがHoxAとHoxDの両者によって複合的に影響を受けることを示している.Hoxは初期の未分化肢芽で行われる大まかな位置価の決定に関係しており,分岐と分節および骨の長軸方向への伸展によって決まってくる個々の骨の形はHox以外のホメオボックス遺伝子や他の因子によって規定されていると考えられる.
図1 肉鰭魚類(A-D)と原始的両生類(E,F)の化石に見られる付属肢の先端部構造の変異.A, Sterropterygion; B, Sauripterus; C, Panderichthys; D, Eusthenopteron; E, Ichthyostega; F, Acanthostega.A-Dでは上腕骨,橈骨,尺骨は同定されているが,先端部の構造は多様性がある.E,Fでは現存四足類に見られないパターンの自脚(手根骨,中手骨,指骨)を持つ.略号:Hu, 上腕骨; Ra, 橈骨; Ul, 尺骨; Fm, 大腿骨; Tb, 脛骨; Fb, 腓骨; II〜V, 第II〜V指.文献31,32より改変.
初期の肢芽ではショウジョウバエのAbdBサブグループのHox遺伝子,すなわち9〜13のパラログに属する遺伝子が体軸の決定で見られるのと同様に肢芽の遠位後部を中心にネストした段階的発現を示す(図2).発生ステージが進むと,HoxAは遠近軸にそった発現がより明確になり,HoxA13は先端部の手根骨(足根骨)から指骨(趾骨)になる領域で,HoxA11は橈骨(脛骨),尺骨(腓骨)ができる領域で,HoxA10は上腕骨(大腿骨)ができる領域で発現する2).一方HoxDは前後の発現勾配は見られるが,HoxD12とHoxD11の発現領域の違いは明瞭でなく,HoxD13はHoxA13と同様,先端部で発現するようになる.このような領域特異的な発現から,四肢の骨格パターンの形成には体軸にそった椎骨などのパターン形成で見られるようにHoxコードが当てはまると推定されていた.すなわち,ニワトリでは第IV指を形成する位置価はHoxD10〜D13のすべてが発現することによって規定され,第II指はHoxD10〜HoxD11によって規定されると考えられた.その根拠は単にこれらの遺伝子の発現パターンだけでなく,実験的に極性決定の領域であるZPAの移植によってHoxDの発現が前後に二極化し,その結果パターンの重複した肢が誘導されることにある3)4).この事実を出発点として以下のような追求が行われてきた. レトロウイルスでHoxD11をニワトリ肢芽全体で発現させると,後肢の第I指が第II指にホメオティックに変わる5).この現象は本来HoxD10のみの発現で規定されていた第I指の領域がHoxD10とHoxD11の両者によって規定される第II指の領域に変わったためであると解釈される. しかし,HoxD13,HoxD11のノックアウトマウスでの形態変化は単純ではない.Hoxコードで前後のパターンが決定されるとすれば,これらの欠失による影響としてより前方側の形質が現れると考えられる.すなわち,HoxD13の欠失によりその発現領域で規定されていた第IV,V指の形がHoxD10〜D12の発現で規定される第III指にホメオティックに変化すると予想される.実際には自脚の中手骨,指骨の形態異常は個体によって大きな差が見られ,前後軸にそった変異は顕著ではない6).第II指と第V指では第2指骨の欠失が見られ,また手根骨の変形と過剰指が前肢で見られる(図3).これに対し,HoxD11の欠失では形態異常はより広範囲に見られ,第II指と第V指の異常に加えて橈骨,尺骨の異常や指骨の縮小が見られる7)(図3). このような結果はZPAシグナルによってHoxDの発現が決定され,それが前後軸にそった位置価の設定に関連しているという推定からはずれる.HoxD13の欠失で見られる形質はHoxD11の場合に見られる形質と比べてより先端部側に限局していることは,HoxD13がHoxD11よりも遅れてより先端部で発現していることと関連がある.したがって,HoxDはHoxAと同様に前後軸よりもむしろ遠近軸にそった位置価に関係していると考えられる(図2).
図2 AbdBサブグループのHox遺伝子の発現と四肢のパターン形成.A, HoxD9〜D13のマウス12.5日胚での発現パターン.文献33を改変.B, 前肢の遠近軸の骨格パターンを規定するHoxコード.文献8より改変.
図3 Hoxノックアウトマウスで見られる四肢の骨に異常が見られる場所.HoxD13,HoxD11をそれぞれ単独で欠失した時の効果(上)とHoxD11,HoxA11を同時に欠失したときの効果(下).略号:R, 橈骨; U, 尺骨; Nl, 舟月状骨; Tr, 三角骨; Pi, 豆状骨; I〜V, 第I〜V指.文献6より改変.
HoxD11とHoxA11の二重欠失による効果はそれぞれを単独で欠失させた時の効果より顕著で,前腕の橈骨,尺骨が極度に変形し短縮する8)(図3).HoxD11の欠失で見られていた第II指と第V指の形成不全がHoxA11とのダブルノックアウトでより深刻になる.HoxA11とHoxD11の機能はこれらの遺伝子を段階的に欠失させることによってその欠損の程度に応じた形質を示す8)9).したがって,Hoxの11のパラログは主に四肢の前腕の骨を規定するHoxコードであると考えられ,これに関してHoxD11とHoxA11は等価である(図2).また,二重欠失の効果は後肢では前肢ほど顕著ではなく,これはHoxC11が後肢の間葉細胞では発現するが前肢では発現していないことによると考えられる.すなわち,HoxA11とHoxD11のダブルノックアウトでも後肢にはHoxC11の作用が残存するために,下腿の脛骨,腓骨に対する効果が現れにくいと推測される8). HoxA13を肢芽全体で異所的に発現したときの効果は,HoxA11およびHoxD11によって指定されると考えられる前腕(下腿)の骨の短縮が起きる10).これは前腕を構成する軟骨細胞の増殖がHoxA13の早期発現のために中断した結果と考えられている.逆に,HoxD13とHoxA13のダブルノックアウトでは指骨の分節が妨げられ,先端部の指の形成異常が起こる. すでに述べたように,前肢と後肢での発現パターンはHoxA,HoxDについてはほぼ類似しているが,HoxCは異なる.HoxC9〜12の先端部外皮での発現は前後肢でともに見られるが,肢芽間葉での発現には前後肢で差がある11).すなわち,他のAbdBサブグループのHoxと同様にHoxC10〜C11は後肢の間葉細胞で後部側に限局した段階的発現を示すが,これらは前肢の間葉細胞ではほとんど発現していない.しかし,HoxCの発現の有無によって前肢,後肢の形質が決まると推測できるほど単純ではなく,たとえばHoxC9 は前肢芽では前側周縁部で発現し,後肢芽では前側半分で発現する(大内ら,未発表).これらの結果はHoxA,HoxDの遺伝子群には前肢芽のZPAやAERに由来するシグナルによって発現が調節されるようなエレメントが存在し,HoxCにはそれがない可能性を暗示している.以上のことから,遠近軸にそった骨のパターンは9〜13のパラログのHoxにコードされていると考えられている8)(図2).この仮説が正しければ,HoxD12のノックアウトでは前肢の手根骨にのみ異常が見られるはずであるが,これについてはまだ報告がない.遠近軸のパターンがこのように単純なHoxコードで説明され得るかどうか興味深い.
四足類の前肢,後肢はそれぞれ魚類の胸鰭,腹鰭に相当し,進化の過程で先端部の構造が多様に変化して生じたと推測される.これらのパターン決定には極性化の活性を担うShhが関係し,ゼブラフィッシュでの胸鰭でも肢芽で見られるのと同様にShhの発現が鰭芽の後部側で見られる12).HoxD10〜HoxD13はゼブラフィッシュでも同定され,その発現パターンが調べられている13).鰭芽後部のZPAと考えられる領域を中心にネストした発現が見られ,このパターンは四足類の肢芽で見られる結果と基本的に似ている.HoxDの発現は間葉細胞に限局し,鰭条になる外皮では発現が見られない.肩甲骨に付属した橈状骨が形成される領域では前後にネストした発現を示す.HoxDの発現パターンは四足類でのパターンと類似しているが,HoxA11は異なっている13).すなわち,ゼブラフィッシュでは間葉細胞の最先端部で後部側に偏った発現を示す.鰭芽では間葉細胞の増殖による伸展が途中で停止し,四肢の先端部に対応する構造が形成されず,一方四足類の肢芽では伸展が継続して後ろから前に向けて湾曲し,先端部の自脚が付加的に生じる(図4).したがって,四肢はEustenopteronなどで見られる原型から間葉由来の先端部構造の発達によって指になり,一方硬骨魚の対鰭は鰭条になる外皮が発達して生じたものと考えられる.
図4 四足動物,肉鰭魚類,条鰭魚類の付属肢の進化と発生過程の比較.A, Eusthenopteronのような肉鰭魚類の祖先から四足類と硬骨魚類が進化し,前部ー後部の境界を決める軸は四足動物では前方へと湾曲し,一方硬骨魚類ではそれが不明瞭になっている.B, 胚発生過程で四足動物ではAERに依存した肢芽の伸展が続くが,一方条鰭魚類では初期に鰭条が発達してくるために,AERのシグナルが遮断されて基部の骨しかできない.肉鰭魚類ではその中間型になる.文献13より改変.
ショウジョウバエのmuscle segment homeobox (msh) に近縁のホメオボックス遺伝子は四足動物で3種類(ゼブラフィッシュでは5種類14))同定されているが,その中で上皮ー間葉相互作用における役割が比較的詳しく調べられているのがMsx1(MsxB, MsxCに対応?)とMsx2(MsxA, MsxDに対応?)である(文献15のレビュー参照).これらは肢芽,神経堤,歯芽,内臓弓,羽芽などで部分的に重複した領域で発現している.その機能は両者に共通な部分もあるが,一部異なっていると考えられる.初期の肢芽ではMsx1はAERおよび進行帯と呼ばれる未分化間充織細胞で均一に発現し,一方Msx2はAERと前部の間充織で発現している(図5).どちらもAERを除去すると発現が短時間のうちに消失し,これにはAER因子の1つBMP-2,BMP-4が関係している.AERに依存したMsx1の間充織細胞での発現はFGFー2,FGF-4によっても代用することができるが,AER以外の外皮からのシグナルによってもMsx1の発現を維持することができる16)17).Msx1は肢芽細胞を未分化状態に維持し,遠位方向への伸展を維持するのに関係しており,一方Msx2は菱脳で見られるようにBMP-4で調節される細胞死に関係していると考えられる.しかし,Msx1とMsx2の構造上の類似性からこれらの機能は相互に補い合うことができると考えられる.そのために,Msx1のノックアウトによって頭蓋骨,顎骨には異常が見られるが,四肢の形態に異常は見られない18).ヒトのMsx2の突然変異では頭蓋骨の異常に加えて四肢の先端部の骨にわずかな異常が見られるのみである19).一方,osteocalcinの遺伝子はMsx1,Msx2によって転写調節されていることが示され20),Msxは軟骨内骨化による骨形成に関係すると考えられる.
LIMドメインとホメオドメインを持つタンパク質をコードするLIM/HDファミリーの1つに,背腹軸のパターン決定に関係するLmx1がある.これは背側の間葉細胞で発現し,背側の形質を優位に支配する機能を持つ(図5).Lmx1をレトロウイルスで異所的に発現すると脚の背ー腹のパターンが背ー背のパターンに変わる21)(図6).すなわち,腹側の筋肉,腱などが消失し,背側の筋肉で置き換えられる.Lmx1の発現は背側外皮で発現するWntファミリーの1つWnt-7aによって誘導され,Wnt-7aをニワトリ肢芽で発現すると背側のみならず腹側の間葉細胞でLmx1の発現が誘導される.Wnt-7aはShhに対しても正の効果を示すことが知られており,その結果肢芽前部にShhの発現が誘導され,重複肢が生じる.逆にWnt-7aのノックアウトマウスでは背側の構造が欠失することが知られており,同時に後部の骨格が欠失する22).これはWnt-7aがFGF-4と同様にShhに対して正の誘導因子として働くことを示している.Wnt-11も背側の間葉細胞で発現することが知られており23),Lmx1に対してどのような効果を示すのか,またWnt-7aとの関係はどのようになっているのか興味深い. LIM/HDファミリーの1つにショウジョウバエのapterousに近縁の遺伝子LH-2がある.脊椎動物で同定されたLH-2A,-2B,-2Cの3つのうち,LH-2A,-2Bは肢芽,鰭芽で位置特異的に発現している(岡本ら,私信;石川ら,未発表).apterousはショウジョウバエの成虫原器では背側のコンパートメントで発現しているが,脊椎動物の肢芽ではLH-2Aは先端部で,LH-2Bは肢芽の前半分の間葉細胞で発現する(図5).LH-2Aの発現はWnt-5aの発現領域とオーバーラップしており,これらの間に因果関係が示唆される.LH-2Bの発現は前後肢でともにみられ,ステージが進んでも比較的長期間維持される.
図5 肢芽で発現するHox以外のホメオボックス遺伝子の発現パターン.Msx1,Msx2はAERでも発現しているが,他は間葉細胞でしか発現していない.Lmx1は背側間葉でのみ発現する.
図6 Lmx1をニワトリ脚芽で過剰発現したときに見られる背ー背のパターン.腹側で見られる特徴的な筋肉,腱が背側で見られる筋肉,腱で置き換えられる.文献21より改変.
軟骨形成に関係したホメオボックス遺伝子として軟骨細胞で特異的に発現するCart1が同定されている24).これはショウジョウバエのalistalessに近縁のホメオドメインをコードし,これに類似のホメオボックスを持つPrx1 (Mhox/Phox)も軟骨膜で発現している.Cart1は軟骨内骨化に関係し,凝集した間葉細胞である前軟骨細胞で強く発現し25),一方Prx1は軟骨膜細胞で一貫して発現している26)27).Prx1に類似のPrx2 (S8) も肢芽,内臓弓,軸中胚葉などで類似の発現パターンを示すが,心臓と脳での発現は異なる28).Prx1/MHoxのノックアウトマウスでは頭顎,四肢,脊椎の骨格形成に障害が見られ,欠失または形成不全になる29).これらは神経堤,硬節,側板中胚葉に由来し,Prx1は未分化間葉細胞から軟骨細胞への分化にかかわっていると考えられる. そのほか,ショウジョウバエのsine oculisに類似のホメオボックス遺伝子としてSix1〜3が同定されているが,そのうちSix1,Six2は肢芽で発現している30).Six1とSix2はそれぞれ異なった領域で発現し,Six1は初期の肢芽後部側での発現から背側前部へ移り,一方Six2は初期の腹側前部での発現から後部側へ移る.これら移動性筋芽細胞での発現パターンから,Sixは指骨の腱,靭帯の形成に関係していると考えられる.
四肢のパターン形成のメカニズムを説明するために,個々の細胞の位置に関する情報を与える物質の濃度勾配を想定し,その閾値によって位置価が設定され,それによってパターンが決定されと考えるモデルがある.この物質をモルフォゲンと呼ぶが,それが肢芽ではたらくためにはそれを産生する細胞と分解する細胞が存在し,その間で一定の期間濃度勾配が維持されなければならない.ZPAで産生されるShhはその候補と考えられるが1),Shhの活性を担うN末端側のペプチドはZPAの近傍に偏在し,Shhは遠距離のシグナル分子としてはたらいていない可能性が高い.Shh自身は初期の誘導シグナルであり,モルフォゲンとしてはたらくのはShhによって誘導される因子であると考えられる.ショウジョウバエの系からの推測で,その最も有力な候補はBMPとWntファミリーであろう.BMPは単独では前後のパターンに影響しないが,他の因子との協働でパターン形成を支配する可能性がある. Hoxで前後軸のパターン形成を十分説明できないとすれば,それに代わるホメオボックス遺伝子は何であろうか?これに関して,LIM/HDのメンバーの中に肢芽間葉細胞で前後,背腹,遠近の3つの軸に関して領域特異的に発現する因子が同定された.脊椎動物の付属肢のパターン形成もショウジョウバエの成虫原器で見られるように境界区画モデルで解釈することができるかもしれない.すなわち,肢芽で前後,背腹の区画化が起こり,その境界部でシグナル分子の相互作用によりパターン化が進行すると考えられる.Lmx1は背腹の境界を規定し,そのパターンを決める.前後軸に関してもLH-2Bに相補的な発現をする因子によって四肢後部の形質が維持され,その境界領域でBMP,Wntなどが互いに影響し合ってパターンが決定される可能性がある.このように,四肢の発生系は今後もパターン形成の分子メカニズムを追求するのに適した実験系の1つであることは間違いない.