運動習慣と月経に対する意識、並びに月経随伴症状の実態
−「PMSメモリー」を用いた月経症状をもとに−



森本 佳世


【目的】

 「月経随伴症状」は月経に伴って起こる心身の不快な症状のことで、主に身体的症状では「下腹部痛」「腰痛」、精神的症状としては「いらいら」「無気力」、社会的症状では「一人でいたい」「物事が面倒くさい」といった症状がある。文献によると、運動は月経随伴症状の軽減につながるという報告がある。
 そこで、運動習慣の有無により月経状況に違いがみられるのかを比較・検討することを目的とした。

【方法】

 本学女子学生70名に対して、運動を通常週3日以上行っている運動群(36名)と非運動群(34名)に分け、月経状況に関しての自己記入方式の質問紙と2月経周期間の即時法日誌記録法(PMSメモリー)を実施した。

<PMSメモリーとは>
 PMS(月経前症候群)を診断するために開発された道具。アンケート異なり、日々の症状の程度を詳しく把握することができるので今回使用した。
・朝(目が覚めたとき)とそれ以外の時間に感じた具体的な心身の症状を、程度(3段階)とともに記録する
・程度は、@少しあるが日常生活には影響なし A日常生活に影響する程度ある B激しい
・運動群のみ、運動直前と運動直後の時間帯も記入欄に加える(時間帯別による記録は今回の調査のために特別に設けた)
・基礎体温、体重、経血量、生活状況(運動、食事、飲酒、薬の摂取等)を記録する


【結果@】

 まず、PMSメモリーの結果を報告する。図1は月経の始まる10日前から月経10日目の身体的症状の愁訴率(症状の有無)を示している。実際に各症状で具体的な症状を記録してもらったが、大きく3つ(身体・精神・社会)の症状ごとにまとめて統計を行った。

 愁訴率は、運動習慣や時間帯に関わらず月経10日前から月経初日にかけて増加し、月経初日には約80%に近い人が症状を訴えている。○で囲った2日間は、朝の時間帯の運動群(細線)と非運動群(細線)において運動群の方が有意に愁訴率は高かったが、それ以外では差はみられなかった。

 身体的症状の程度も図2に示すように、愁訴率と同様な波形が示された。月経初日にかけて訴える症状の程度が高くなっている。縦軸は、3段階で記録された程度を加味した平均値である。○で囲った3日間は、全て朝の時間帯の2群間(運動群・非運動群)において、運動群の方が有意に高かった。月経3日目のみ、その他の時間帯の2群間(運動群・非運動群)でも運動群の方が有意に高かった。それ以外では有意な差はみられなかった。

 精神的、社会的症状においても同様に、愁訴率と程度の統計を行った。しかし2群間(運動群・非運動群)において有意な差はみられなかった。

 運動群のみ、運動直前と直後の身体的症状の愁訴率と程度を統計した結果を図3と図4に示す。ともに有意な差はみられなかった。精神的、社会的症状においても同様であった。

【結果A】

 次に、アンケート結果を報告する。図5は運動群のみ回答してもらった質問である。各症状において、運動直前の症状の程度と運動中・運動直後・運動直後から1時間以上経ったときの時間帯の程度と比較したものを示している。身体的症状の「運動中」と精神的症状の「運動中」以外では、症状が運動前より「弱くなった」と答えた人の割合が「強くなった」と答えた人より有意に多かった。

 アンケートでは、月経状況を把握するために各症状(身体・精神・社会的症状)が「毎日感じる」「時々感じる」「感じない」のどれに該当するか月経前(7〜10日;図6)と月経中(図7)に分けて質問した。結果、運動郡・非運動群の間に有意な差はみられなかった。

 月経随伴症状の具体的な症状で回答が多かったものは、以下の通りである。身体的症状の「乳房が張る」「肌荒れ」「乳房が痛い」において2群間に有意な差がみられた。

前回の月経で感じた主な身体的症状(複数回答可)
運動群
(%)
下腹部痛
(94.4)
腰痛
(55.6)
肌荒れ
(38.9)
乳房が張る
(33.3)
にきび
(30.6)
下腹部が張る
(25.0)
非運動群
(%)
下腹部痛
(97.1)
乳房が張る
(58.8)
腰痛
(50.0)
下腹部が張る
(38.2)
にきび
(26.5)
肌荒れ
(17.6)

前回の月経で感じた主な精神的症状(複数回答可)
運動群
(%)
憂鬱
(65.4)
イライラ
(57.7)
怒りやすい
(34.6)
集中力低下
(23.1)
無気力
(19.2)
能率低下
(15.4)
非運動群
(%)
憂鬱
(60.0)
イライラ
(57.7)
怒りやすい
(36.7)
集中力低下
(33.3)
無気力
(19.2)
能率低下
(15.4)

前回の月経で感じた主な社会的症状(複数回答可)
運動群
(%)
月経が嫌になる
(69.6)
物事が面倒になる
(47.8)
一人でいたい
(21.7)
人付き合いが悪くなる
(13.0)
女性であるのが嫌になる
(13.0)
非運動群
(%)
物事が面倒になる
(63.0)
月経が嫌になる
(48.1)
一人でいたい
(25.9)
人付き合いが悪くなる
(11.1)
女性であるのが嫌になる
(11.1)

<PMS症状について>
 月経前でイライラしたり、甘いものが食べたくなったり、眠たくなったり・・・とチェックシートで載せた症状は月経のために女性ホルモンのバランスが乱れることで生じる「PMS症状」としてまとめられている(症状の発症の仕組みはまだ明らかにされていません)。この症状は、女性の90%の人が何らかの症状を訴えていますが、身体的症状だけではなく精神的症状、社会的症状も月経随伴症状に関与していることを知っている人は多いといえません。月経症状で悩む人は、事前に基礎体温等で月経の時期を把握し精神的負担のかかる事柄を避けるなど、日常生活を快適に過ごせるように自らの身体に関心を持つことが大切である。
 症状の程度は個人によって異なるが、月経ごとに同じ症状があり程度が激しい人はPMS(月経前症候群)である可能性がある。これは以下の定義に該当した者のみである。今回の「PMSメモリー」調査から、数名該当していると思われる者も存在した。

<PMS(月経前症候群)とは>
・月経開始の3〜14日前から始まる精神的、身体的症状で、月経開始とともに減少または消失するもの
・症状の程度が2〜3、日常に影響する程度ある
・周期的に発症すること  

【考察】

 「PMSメモリー」による今回の調査からは、運動群と非運動群の月経状況(月経随伴症状の愁訴率・程度)は有意な差がみられなかった。運動群による運動前後の症状の緩和もみられなかった。
 アンケート結果も同様であった。しかし図5に示すように、運動群において運動が運動前の症状を和らげると回答した者が多かった。
 今回の「運動群」は週3日以上の運動を行う「ややきつい」程度の運動を行っている者が70%を占めるという集団であった。この程度の運動を行った場合症状は軽減するとは言い切れないが、少なくとも悪化することは認められなかった。

<アンケートとPMSメモリー調査について>
 2つの調査を行って、「運動を行うと症状が軽くなった」というアンケート結果が得られたのに対し、PMSメモリーでは同じような結果がみられなかった。毎日時間ごとに細かく症状をチェックしていくPMSメモリーでは、軽減するだけでなく強化してしまうこともあることが記録された結果である。アンケートで症状の程度を聞いたとき、月経周期全体をまとめて回答してもらうため、そのときの強い記憶をもとにイメージ等を含んで回答する恐れがあると考えられる。よって、PMSメモリーの方が信頼性が高いものであると思われる。


【提言】
 月経状況以外に、今回のアンケートでは「月経」に対してのイメージ、緩和対策、生活習慣などについて質問した。結果は、運動習慣に関わらず有意な差はみられなかった。イメージでは「憂鬱なもの」「わずらわしい」「嫌だ」などネガティブに捉えている人が多かった。緩和対策についても、複数回答であるが積極的にケアを行っている人が多いとは言い切れない。月経に関しては現在多くの研究がなされており、その研究結果の中でセルフケア(運動・食事・睡眠など規則正しい生活を行うこと)で月経症状の緩和がみられたという報告がある。これらの資料を参考にし、今後の生活で月経をポジティブに捉えうまく付き合えることを期待する。