研究のご紹介

神経筋疾患の病態解明と治療法の開発

MELASはミトコンドリア脳筋症では最も頻度の高い病型で、頭痛、嘔吐、てんかん発作などに加えて反復する脳卒中様発作を特徴とします。MELASの原因となるミトコンドリア遺伝子変異によりtRNAのアンチコドンのタウリン修飾が欠損し、そのためミトコンドリアの蛋白合成が障害されます。

われわれは日本医科大学太田成男教授との共同研究により、高用量タウリン投与によりミトコンドリア機能が改善し、脳卒中様発作が抑制されることを見出しました。現在、日本医療研究開発機構(AMED)からの研究費により、MELASに対するタウリン補充療法の医師主導治験を実施しており、一日も早い薬事承認を目指しています。
→この研究は世界的にも注目されています。

筋ジストロフィーなどの筋疾患における筋萎縮の分子シグナルを研究してきました。われわれの筋肉量は骨格筋特異的なTGF-βファミリー分子であるマイオスタチンという蛋白の働きにより調節されています。マイオスタチンを阻害することで、筋肉量は驚異的に増大します。そこで、筋萎縮を治療するためマイオスタチン阻害抗体医薬が開発され、既に治験も行われています。われわれは、マイオスタチンの作用を阻害するペプチド配列を特定し、それに基づいたペプチド創薬に取り組んでいます。筋肉への局所投与により顕著な筋肥大と筋力増強を達成しました。現在、日本医療研究開発機構(AMED)からの研究助成により、全身投与で有効な治療薬を開発しています。

末梢神経障害(ニューロパチー)の研究

遺伝性抹消神経障害と糖尿病性神経障害の再生治療の研究(准教授 村上 龍文)

Charcot-Marie-Tooth(CMT)病や家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)などの遺伝性末梢神経障害では多くの原因遺伝子が同定され、その病態の解明や治療法の開発が進められています。CMTは脱随型で常染色体優性のPMP22遺伝子重幅が原因であるCMT1Aが最も頻度が高いタイプです (Murakami et al. Medicine 1996)。我々もCMT1Aの他CMTX,CMTX5やCMT4B1(Murakami et al. J Neurol Sci, 2013),dHMNⅤなどを診断しています。また感覚性失調症で発症し近位筋筋力低下を伴う新たな遺伝性疾患を見出し (Murakami et al. J Neurol Sci, 2010)原因遺伝子の解明を進めています。FAPはトラスンスサイレチン(TTR)の遺伝子変異が原因で、長い間TTR遺伝子は末梢神経系に発現がしていないと考えられていましたが2008年に後根神経節の末梢グリアに発現しているのを見いだし (Murakami et al. Neurosci Lett, 2008)、その後末梢神経のSchwann細胞でもTTR遺伝子が発現しているのを明らかにしました (Murakami et al. Brain Res, 2010) 。さらにSchwann細胞から分泌された異型TTRが感覚神経節細胞の神経突起成長に抑制的に働くこと、高齢FAPマウスDRGのSchwann細胞内にTTR凝集顆粒が観察されることを明らかにしました(Murakami et al. J Neurochem 2015)。

末梢神経障害の治療の基礎研究として、疾患モデルマウスを用いて、神経を再生させる治療候補遺伝子を電気穿孔法で導入して、治療効果を見る実験を進めています (Murakami & Sunada, Curr Gene Ther, 2011) 。われわれは昭和大学薬学部臨床薬理学教室との共同研究で、痛覚鈍麻を有するSTZ誘発糖尿病マウス (Murakami et al. Brain Behav, 2013)を用い、VEGFやPlGF-2遺伝子治療が痛覚鈍麻の改善や感覚神経の再生に非常に有効だと言う事を見いだしました (Murakami et al. J Gene Med, 2006; Murakami et al. Exp Neurol, 2011)。現在さらにその改善機序を研究中です。また同様の方法でALSのモデルマウスでも治療実験を行っています (Murakami et al. IEMA, 2013) 。

電気生理学的検査に関する研究(講師 逸見祥司)

内側足底神経は坐骨神経から最も遠い神経で、ポリニューロパチーでは病初期より障害されます。このため、病初期の軽い症状のポリニューロパチーを対象にしたルーチン検査でこの神経を選択するのは妥当と思われます。従来の方法(Guiloff法)では感覚神経活動電位(SNAP)が非常に小さく、高齢では健常者でもSNAPの導出がしばしば困難です。また、刺激電極を足底に置き、脛骨内果でSNAPを記録する方法(Ponsford法)では高振幅のSNAPが得られますが、母趾-足底間の伝導を評価しないため病初期の軽い症状のポリニューロパチーの診断感受性に劣ります。これらの欠点を改良しながら高い診断感受性を合わせもつ内側足底神経の神経伝導検査(NCS)の方法を研究しています。

われわれは刺激電極を母趾に置き、記録電極を足底に置く順行性検査法で内側足底神経のSNAPを記録しています。健常者を対象にした研究では、Guiloff法と比べて高振幅のSNAPが記録されることが分かりました。また、病初期の糖尿病性ニューロパチー患者を対象にした研究では、Guiloff法やPonsford法より高い診断感受性が得られました。自験法による内側足底神経のNCSは臨床的に早期のポリニューロパチーの診断に有用です。(Hemmi S, et al. Simple and novel method to measure distal sensory nerve conduction of the medial plantar nerve. Muscle Nerve 36: 307-312, 2007)

従来、SNAPは神経に沿った皮膚表面に表面電極を設置して記録してきました。この表面電極法が標準的な検査法として広く行われています。一方、米国や欧州の一部の施設では、針電極を皮膚に刺して神経に近接させSNAPを直接記録する方法(神経近接針電極法)が用いられています。この方法では病初期の軽い症状のニューロパチーが疑われるにもかかわらず表面電極法では異常を検出できないとき、神経伝導速度の遅延や異常な時間的分散を観察することができます。また、表面電極法ではSNAPを記録できないとき、小さなSNAPを記録でき、表面電極では得られない貴重な情報を得ることができます。

われわれは神経近接針電極法を足趾・足趾間神経に対して行い、臨床的に早期の糖尿病性ニューロパチーの診断に用いています。病初期の糖尿病性ニューロパチー患者を対象にした研究では、従来の内側足底神経や腓腹神経の表面電極法より高い診断感受性が得られています。

球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung病:KAS病)は舌・四肢の筋萎縮と筋力低下を主徴とする進行性の遺伝性運動ニューロン疾患です。KAS病において臨床的に筋易疲労性が知られており、われわれはKAS病と診断された患者を対象に反復刺激試験を施行し、筋易疲労性を電気生理学的に評価しています。被検筋は僧帽筋と小指外転筋を選択し、3Hzの頻度で複合筋活動電位が最大に誘発される強度の2倍で反復刺激を施行します。この結果、僧帽筋記録においては約90%の被検者で10%以上の有意な漸減現象を認めました。小指外転筋記録では漸減現象は一部の被検者で認められるに止まり、漸減現象は近位筋において出現しやすく、筋易疲労性部位と関連があることが推測されました。(Inoue K, et al. Muscular fatigue and decremental response to repetitive nerve stimulation in X-linked spinobulbar muscular atrophy. Eur J Neurol 16: 76-80, 2009) KAS病において反復刺激検査で筋疲労現象が認められることは運動ニューロン疾患の病態解明の一助になるのではないかと注目しています。