漏斗胸(胸郭変形)とは
関西地方における漏斗胸専門外来(外来担当 植村貞繁)

西宮渡辺心臓血管センター

住所:兵庫県西宮市池田町3-25 / 電話:0798-36-1880

Q1 漏斗胸(胸郭変形)とは?

漏斗胸とは前胸部が陥凹する(へこんでいる)病気です。凹みの状態は人それぞれ違います。深く凹んでいる人もいますし、軽い状態の人もいます。凹みが右と左で同じようになっている人もいますし、左右の形が違う人もいます(非対称性)。逆に、前胸部が突出する状態は鳩胸といいます。鳩胸は漏斗胸より発生頻度は低いです。

凹みが最初に気づかれるのは乳幼児期が多く、全体の7割くらいは小さいうちに発症します。小学校に入ってからとか、中学校に入ってからという人もいます。以前は気づかれなかったのに、急に背が伸びた頃に目立ってきたと言う人もいます。

3歳以下で漏斗胸ではないかと言われたら、3歳を越える頃まで経過をみましょう。3歳を越えてもやはり胸の凹みがあれば、漏斗胸と診断できます。小さい頃に漏斗胸と言われた場合、その状態は成長と共にどのようになるか心配される方が多いと思います。漏斗胸の自然経過についてはQ3を参照してください。

漏斗胸は男の子に多く、手術を受ける人の75%を占めます(男女比3対1)。中には兄弟で発症する人もいますし、親子で見られる場合もあります。家族内での発症は全体の3割くらいにみられます。

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Q2 漏斗胸の症状とは?

1)幼児期の問題

年齢が低いこの頃は、胸の凹みがあっても子どもさん自身はそれを気にすることはありません。親のほうもあまり気付いていない人もいます。検診で初めて漏斗胸と言われて驚いたという話をよく聞きます。小さいうちから凹みがあって小児科を受診する親も多くいるようです。その時に、小児科の先生が「漏斗胸は自然に良くなるから心配しなくてもいいよ」、と言ったりすることもあるようです。中には、「治療の必要はありません」という方もいます。そう言われて、何もせず大きくなって、やはり漏斗胸がそのまま残り、それが気になって手術をしたいと当院の外来を受診する成人の方もたくさんいます。漏斗胸は自然に良くなることは稀なので、やはり一度は専門の病院を受診したほうがいいでしょう。漏斗胸の自然経過は次のQ3を参考にしてください。

小さい頃によくみられる症状としては「風邪をひいた時に咳が長引く」ということです。それがひどくなると気管支炎になったり、肺炎になったりします。また、咳がひどくなると「喘息様の症状」となることもあります。この原因は胸の凹みにより空気の通り道である気管支が圧迫され、狭くなっているせいです。風邪をひくと気管支の粘膜が腫れてきますが、そうするとますます肺へ行く空気の通りが悪くなって症状が出やすくなるのです。

他には、「食が細い」とか、「食後によく吐く」ということもあります。そのせいで体重がなかなか増えないということも多いようです。

2)学童期の問題

小学校に入るようになると自我がでてきます。自分と他の子とは違うということがわかってきます。その時に友達から胸が凹んでいることをからかわれると、深く傷き、心に大きな問題を抱えることになります。特に夏のプールの時期によくみられます。成人になっても海水浴に行けない、皆で温泉に行けないなどということもよく聞きます。このようなコンプレックスが自信が持てない、人生に対する態度に影響を与えることもあるため、注意が必要です。

風邪をひいてこじらせて気管支炎や肺炎になることは、成長すると徐々になくなります。一方で、運動をするときに他の子より「疲れやすい」とか、「すぐに息が上がる」、「運動についていけない」といったことを訴える事も多いです。

3)思春期以降の問題

思春期はこどもの心を推し量るのが難しくなる頃です。また、手術は怖いことだとわかってくるため、治療のことになると極端に話をすることを嫌がることもあります。胸のことを気にして入るけど、手術は怖いから病院にいくのが嫌だといったこともおこります。しかし、悩みが深ければ治したいという希望も強くなる時期でもあります。

漏斗胸と胸の症状について誤解が多いようです。胸が痛くなることがあるという話を聞くと、それは心因性の問題だという人もいます。しかし、その考えは間違っています。「胸が痛い」という症状は漏斗胸患者ではよくある症状です。年齢が高くなるとそういった訴えが約半数にみられます。運動と胸の痛みは関係ないことが多く、心臓の病気がある訳ではないようです。胸が痛くなる理由はわかっていません。運動をすると「疲れやすい」とか、「すぐに息が上がる」、「運動についていけない」ということ訴える人も多いです。

症状というわけではありませんが、姿勢の問題「猫背」もよく質問されます。漏斗胸の方はほぼ全員猫背の姿勢になります。

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Q3 漏斗胸は自然に良くなるの?

年齢が低い乳幼児では胸の形は変化しやすいので、3歳になるまではそっと経過をみていきましょう。小学校に入るころまで経過をみると、胸の変形に変化はありません。少し凹みが進行したようだと言われる親もいます。なかには少しずつ改善しているということが胸のレントゲン検査で明らかになる人もいますが、このような人は少ないです。

小学校から中学校にかけて胸の形は少しずつ変化することがあります。特に10歳を過ぎる頃から変形が進行する人がいます。中学生になって外来を初めて受診する人に話を聞くと、小学校高学年の頃から変形が進んできたということをよく経験します。このような人を診察しますと、半数の人では胸の形が左右非対称、すなわち右の方が凹んでいる形であることがわかります。このような非対称性変形は小学校の低学年では少ないので、胸の変形はこの頃に進行することがあると考えられます。

 漏斗胸の人が成人になったら凹みが目立たなくなったということはよく聞きます。確かに、大人になって太ってきて皮下脂肪が厚くなると全体に体が丸くなるので、軽度の変形であれば目立たなくなります。ただし、肋骨の変形が治るということではありません。そのため、内臓の圧迫などは改善しません。私たちの外来に成人の漏斗胸患者さんが多く来られますが、外見的にあまり凹みが強くなくても、CT検査をすると骨の変形はかなり強いことがあります。

非対称性漏斗胸:胸部CT 検査で画面左の方に凹みが強い

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Q4 漏斗胸と肺機能の問題

胸が凹んでいるとその中の臓器は影響を受けます。肺を入れる容積が少なくなるため、肺活量は少なくなります。肺に空気を送るための気管や気管支も狭くなり、空気の通りが悪くなります。風邪を引いた時にゼーゼーいいやすくなったり、咳が長引くのも気管支が炎症で腫れて空気が通りにくくなるせいです。気管支喘息と言われることもあるでしょうが、漏斗胸と喘息とは直接の因果関係はありません。漏斗胸が改善すれば喘息の症状も軽減することはあります。呼吸機能検査を行うと肺機能がどれほどであるかがわかります。ただし、10歳以下ではこの検査は難しいことがあります。

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Q5 漏斗胸と心機能の問題

胸の凹みのちょうど真下に心臓があります。凹みが強いと心臓が押されます。押された心臓は左に押しやられ、位置と形が変わってきます。このため、心電図をみると異常が出やすくなります。心臓の圧迫の程度により心臓の働き(心臓が1 回の収縮で送り出す血液量)が少なくなることもあります。心臓の弁に異常がでることもあります。

(術前と術後のレントゲン側面写真:脊椎と胸骨の間が術後には広くなり、心臓の圧迫も改善している)

心臓の検査としては心電図と心臓の超音波検査があります。学校検診で心電図に異常があると言われることも多く、不完全右脚ブロック、右軸偏位という診断がつくことが多いです。学童期に手術をするとこのような異常は改善することもあります。心臓の超音波検査は手術の前に行うことがあります。心臓の機能異常を調べるために行うのですが、ここで心臓の弁の異常(逆流や狭窄など)、心拍出量の測定などが行われます。

軽度の漏斗胸では心臓の働きに影響はでないことがありますが、高度の場合は心機能に影響がでてきます。漏斗胸の術後に「術前と比べてずいぶん元気になりました」という話はよく聞きます。手術する前の心臓は前から押されて、十分に拡がることができないため、一回の心拍出量が少なくなっています。手術をすると、心臓が押されるという状態が改善し、一回の心拍出量が増えます。運動をした時の心臓の働きは、手術前に比べ、手術後には改善することが最近の研究で明らかになってきました

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Q6 漏斗胸の原因

この病気の原因はまだ突き止められておりません。以前は肋軟骨が内向きに長く成長発育することが原因で凹んできたと言われてきました。それは間違っていることが私たちの研究で明らかになりました。漏斗胸の患者さんの肋軟骨は長いのではなく、逆に少し短くなっています。たぶん、肋骨の形成異常ではないかと思います。この病気の子供さんは肋骨や肋軟骨の支持力がふつうの人より弱く(肋骨や肋軟骨が柔らかいあるいは細い=形成異常)、息を吸うたびに少しずつ前胸部が落ち込んで、だんだん凹みが明らかになってくるのではないかと思います。

この病気のこどもに入眠時に「いびき」をかく人が多いことも知られています。これは扁桃腺やアデノイドが大きいためで、それにより、空気の通りが悪くなり、息を吸うとき、より一層大きな力が必要となり、それによりみずおちが凹んでしまうからです。もし、扁桃腺やアデノイドが大きく、漏斗胸もあるというこどもの場合、(多くは小学校に入るまでのこどもです)まず、耳鼻科で検診を受けることをおすすめします。扁桃腺やアデノイドをとる手術の後1年以上経過をみると、漏斗胸が改善することもあります。

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Q7 漏斗胸の治療

1)手術が必要な人は?

胸の凹みが強い人は手術が必要ですが、その程度を診断するのにはCTの検査が必要です。CTで明らかに凹みが高度であると判断されたら、手術をすることをお勧めします。CTの検査はレントゲン被曝が多いため、頻回の検査は避けるべきです。手術が必要と判断される年齢になるまでは胸の正面と側面のX線撮影で経過をみることになります。

年齢が高くなると自分での胸の形が気になって「手術をして治したい」と言う時期がきます。そうなれば手術の相談をしましょう。他に胸が痛くなったりすることで手術を希望する方もいます。

2)手術の時期は?

手術の時期として年齢が低いほうがいいと考える人もいますが、私たちは原則的に低年齢(8歳以下)では手術をしないほうがいいと考えています。これまでに行った数多くの手術経験から、8歳以下で手術を行った患者さんを長期にみていきますと、肋骨の形が不整形となり、満足いく結果が得られない人がでています。年齢が低いと肋骨が柔らかすぎて、逆に術後に問題がでてきます。また、Nuss 法で手術をする場合、金属のバーを肋骨と肋骨の間を通すのですが、体が小さいためその部位を決めるのが難しいという問題もあります。さらに、入れた金属のバーはいずれ抜くことになります。それを抜いた後、まだ体は成長しますが、その経過中に胸の凹みがまた出てくるということもあります。以上の理由で、漏斗胸の手術を行うのに適した年齢は10歳以上と考えています。私はこの数年、5歳以下で手術をすることはなくなりました。

6歳、7歳の方にももう少し待ちましょうと話をしています。また、年齢が10歳以下の子どもでは手術をうける際の精神的未発達による心理的負担が大きい場合があります。手術を受けて退院までの期間では、中学生以上の人のほうが、小さいこどもより精神的に安定しており、回復もいいことがよくみられます。ただし、患者さん本人がどうしても治したいと希望する場合には6歳でも手術をすることはあります。その時にはバーを抜く時期をできるだけ遅く(12歳以降)なるようにします。

中学生や高校生以上でも手術はできます。年齢が高くなることの問題点は4つ考えられます。

① 骨が硬くなる。

② 胸の変形が左右非対称性になりやすい。

③ 術後の回復に時間がかかる。

④ 運動や学校生活、仕事に支障がでやすい。

しかし、年齢が10歳以下の子どもでは手術をうける際の精神的未発達による心理的負担が大きい場合があります。手術を受けて退院までの期間では、中学生以上の人のほうが、小さいこどもより精神的に安定しており、回復もいいことがよくみられます。また、入院期間をみると、成人でも小児と同様に術後6日目で退院出来る人が多いです。

成人漏斗胸

成人になった人の手術に関してはQ11に書いていますので、参考にしてください。

最近200例における手術時年齢の分布を示します。以前は小学校入学前に手術を受ける人が多かったのですが、最近では小学校高学年から中学校、高校、成人とほぼ同じような数の手術が行われています。

3)手術以外にどのような方法がある?

■陰圧吸引療法(バキュームベル、ペクタスエッグ):胸壁に大きな吸盤をつけてこの陰圧で胸壁を持ち上げる方法です。手術以上の効果は望めません。長期間毎日胸にこの装置を付ける必要があります。

■運動:水泳などの運動は肺活量を増やして胸の形を良くします。私は運動はしっかりする方がいいと思います。しかし、凹みそのものが著しく改善するというわけではありません。

■呼吸、姿勢療法:猫背になるのは漏斗胸患者さんにとって自然なことですが、できれば姿勢は良いほうがいいですね。胸を張って大きな息を吸い込むようにするといいとNuss先生は言っていました。手術前や手術後に行う上半身のストレッチは非常に効果的です。両手をまっすぐ上に伸ばし、10秒それを保つ。次に後ろ下に両手をまっすぐ強く引くようにして10秒保つ。次にまっすぐ前に両手を押し出すようにして10秒。これを2-3回繰り返して下さい。背骨や肩の関節が柔らかくなり、姿勢も良くなります。

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Q8 Nuss 手術について

この手術はNuss先生が1998年に発表した論文で世界中に知られるようになりました。それまではRavitch(ラビッチ)手術というのが主流で、胸部の正面を開いて肋軟骨を切除し、胸骨に切り目を入れて持ち上げる方法で行なっていました。Nuss手術では傷が胸の正面にできません。脇の下に約2cmほどの小さい傷が入ります。肋骨や胸骨を切ることはありません。そのため、Ravitch(ラビッチ)手術よりも手術時間が短く、出血量も少なく、傷も目立たないという特徴があります。低侵襲手術ということばが最近の外科治療ではよく使われますが、その代表的な手術と言えます。

この図はNuss先生が最初に書いた論文に載っていた手術の図です。胸の中に幅12mm、厚さ2mmの細長いステンレス製のバーを入れます。長さは体格により幾つかのサイズの中から選択します。図のように胸の形に沿って曲げたバーを、まずは下向きにして入れます。これを180度回転させて、凹みを持ち上げます。

この手術の難しいところの一つが凹みの一番深いところにバーを通す手技です。胸骨の下端が最も凹みが強いところですが、そのすぐ下に心臓があります。バーは心臓と凹んだ胸骨の間に通すことになりますが、そのスペースが狭いため、これを安全に行うことが非常に重要なのです。私たちは胸の中に内視鏡(胸腔鏡)を入れて、直接確認しながらこの操作を行います。同時に、凹んだ胸骨を引き上げてこの狭いスペースを広げながら行います。そうすることで、手術の安全性は高まります。

次に難しいのはバーをどこに入れるかを決めることです。簡単なようですが、胸の形は一人一人異なります。肋骨のどの部位にいれて、どの部位を持ち上げて、どのように固定するか、毎回慎重に検討して最も良い位置を見つけるようにしています。

バーの両端は皮膚と肋骨の間にあります。外から見てもわかりませんが、触るとわかります。バーがずれないように、両端のところを肋骨としっかり固定します。同時にスタビライザーを使用します。これはずれを予防するために必要です。

手術前・後

手術時間は1本のバーを使用する場合は1時間以内で終わることが多いです。体の大きい人には2本入れて胸骨を幅広く持ち上げます。その場合は1時間半くらいかかります。

使用するバーはステンレス製かチタン製です。金属アレルギーを心配する人にはチタン製のバーを使用します。Nuss手術で金属アレルギーを起こすことはありますが、発生頻度は少ないと思います。これまでに何かの金属アレルギーになった人は予め申し出てください。

 

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Q9 手術の合併症は?

1)手術中の合併症

Nuss法の手術では手術中に起こりうる合併症として心臓や大血管の損傷があります。これは重大な合併症ですので、起こさないように十分な注意が必要です。幸い、私は850例以上の手術経験で心臓の損傷は1例もありませんでしたが、Q8の手術の項目で書いたような方法で危険を回避することができます。

その他の術中合併症として肺の損傷があります。これも同様に胸腔鏡を見ながら手術を行えば危険性は少なくすることができます。これまでに肺の損傷はほとんどありません。ただ、再手術を行う場合に肺が癒着していて、肺の癒着を剥がす時に小さな傷が入ることはあります。これも術後に重大な問題が起こったことはありませんでした。手術中の出血により輸血が必要であったことも全く経験していません。

2)術後の合併症

手術が無事に終わっても、術後に問題がおきることがあります。術後の合併症として主に以下のことがあります。

 1. 感染(細菌が体に入って熱がでる)

 2. バーのずれ

 3. 気胸

 4. 血胸

 5. 皮下出血

 6. 無気肺、肺炎

感染に関しては手術の時に感染を起こさないように十分注意しています。それでも体内に異物(金属のバー)が入るため、通常の手術より感染の危険性が高いと言われています。傷のところが化膿したのはこれまでの手術で1%未満でした。明らかな化膿という状態ではないのですが、術後に熱が続いて入院が長期化する危険性は2-3%あります。いずれも抗生剤の治療で改善しております。

バーのずれも術後合併症として重要です。バーは胸骨を持ち上げるように胸に入れております。この時、凹んでいた胸骨はもとに戻ろうとする力が働きます。特に術後3カ月くらいはその力が強いのです。この間、バーがずれないように、手術の際にしっかりと肋骨に固定をしています。また、術後に無理な力が加わるとずれをおこす原因にもなります。術後3カ月間は無理な運動を避けていただくのですが、その理由はバーのずれを予防するためでもあります。術後にバーがずれてしまう危険性は4-5%あります。ずれが大きい場合は胸の凹みが再発します。その時には再度手術を行い、バーの位置をもとに戻して再固定する手術を行うこともあります。

気胸というのは手術後に胸の中に空気が貯まることです。原因は肺の損傷が考えられます。小さい傷であれば空気を抜く細い管(ドレーン)を側胸部から胸の中に入れて漏れてくる空気を外に排出します。多くの場合はこの処置で改善します。

また、手術の時に胸の中に空気を入れて胸腔鏡で胸の中を観察しますが、この時の空気が残ってしまうことがあります。これは時間と共に自然に消えてしまいますので、通常は何もしなくても問題ありません。

血胸は胸の中に血液が貯まることです。手術の際に出血することがありますが、ほとんど少量ですみます。稀ですが、じわじわと胸の中に溜まってくることがあり、それが原因で肺を圧迫すると呼吸が苦しくなることがあります。そのような場合には胸に溜まった血液を外に出す管(ドレーン)を入れます。手術の際に術後血胸の危険がありそうだなという場合には、予防的にドレーンをいれることもあります。

皮下出血は傷の周りが出血によって腫れてくることです。傷口の近くからじわじわ出血することでおこります。ほとんどは少量であるため自然に出血が止まり、腫れも徐々にひいてきます。数日後には皮膚に青いしみができますが、心配はいりません。その後自然に消えていきます。

手術の後に肺の膨らみが不十分であれば無気肺を生じます。胸の手術の後は大きな呼吸がしにくくなります。肺に空気が入らなくなると肺の一部がしぼんで無気肺になります。そこに細菌感染を起こすと肺炎になります。術後には肺を十分広げるようにすることが重要で、痛みを少なくし呼吸リハビリを行うことが必要になります。

【呼吸リハビリ】

胸の手術で胸が痛いと呼吸が苦しくなります。大きな息を吸うことができないためです。そうなりますと十分な酸素が取り込めません。肺の膨らみが悪くなると無気肺になることもあり、それが原因で肺炎になることもあります。また、痰を出すことも難しくなります。このような術後の問題を解決するために、手術の前から呼吸のリハビリを行います。上手に呼吸をする方法(腹式呼吸法)や、大きな息を吸う方法を練習して、手術の後にそれを実践してもらいます。呼吸リハビリは当院のリハビリテーション科のスタッフが指導をします。

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Q10 術後の痛みと術後の経過は?

1)術後の鎮痛処置

Nuss手術では胸の凹みを一気に持ち上げますので、胸の形が大きく変化します。そのぶん、胸全体に痛みが生じます。もちろん一番痛いところはバーが入っているところの肋骨です。この痛みは5日くらいで改善してきますが、術後すぐの痛みはかなり強いので、十分な痛み止めの処置が必要です。痛みを取る方法には3種類あります。一番効果が高いのは硬膜外麻酔法です。これは手術に先立って、背中から細い管を背骨の間から脊髄近くに入れて、痛みを感じる神経の根元に痛みを止める薬を入れる方法です。この方法が効けば胸の痛みはかなり軽くなります。術後5日はこの方法で持続的に薬を入れて痛みをとるようにします。

2番目は点滴のお薬です。点滴から持続的に痛みをとる薬(麻薬の一種)をいれます。この薬もよく効きますが、副作用として眠気がくることと、吐き気を起こすことがあります。吐き気は術後24時間くらいで改善することが多いですが持続する場合は中止します。他に麻薬以外の点滴から入れる薬もありますので、状態に応じて使用します。

3番目は飲み薬あるいは座薬です。術後はあまり食欲が出ないことがあり、飲み薬は飲めないことが多いので、座薬を使うことが多いです。この薬も効果は高いため、術後早期は1日3回使います。飲み薬が飲めるようになると、定期的な内服を始めます。痛み止めの内服薬で胃が悪くなることもありますので、その時には胃薬も必要です。

以上の3種類の方法で痛みを積極的にとるようにします。痛みが少ないほど術後の回復も早いです。痛みが強い時には我慢せずに早めにスタッフに声をかけてください。

痛みを感じるかどうか、気分の良し悪しで大きく変わります。不安が強い場合や精神的に気分が優れないと痛みも強く感じます。入院や手術の不安、不眠、その他不快なことがあれば、これも必要なお薬を使用します。

2)術後の入院生活

手術の後は数日歩くことができません。ベッドはリクライニング式です。上体を上げて座位をとることはできます。術後1日目、2日目は徐々に上げていきます。3日目に座って食事をするようにします。2〜3日目から歩行練習を始めます。5日目に点滴ははずれます。トイレは心配いりません。小用の方は歩けるまで膀胱に入れた管から出ます。排便は術後数日は出ません。術後は食欲がなく、あまり食べられないことや腸の動きも弱くなるためです。

術後5日目で胸のレントゲンを撮り、問題なければ退院できます。この頃には普通に歩くことはできますが、寝起きの動作が痛くて困ることもあるようです。階段を登ったりする練習も行います。咳やくしゃみ、大笑いで胸が痛くなることもあります。術後5〜6日で退院することを目標にしています。これは成人でも小児でも同様です。熱が続いたりすると退院が延期されることもあります。

3)退院後の生活

退院後の運動制限は痛み、バーのずれ、内出血の予防に重要です。学校へ通う方は2カ月間体育の授業は見学としています。術後1カ月もするとゆっくり走ることはできるようになりますので、散歩や軽いランニングは徐々に始めてもいいでしょう。3カ月が過ぎると通常の運動はしてもいいです。胸を圧迫したり胸に強い衝撃があるようなスポーツ、柔道やラグビーのようなスポーツはやめてください。

胸に衝撃を受けると痛みがでます。痛みがしばらくして消えていけばあまり心配しなくてもいいですが、痛みが持続する場合や呼吸が苦しくなる場合は急いで病院を受診してください。そのような場合は内出血している可能性があり、入院が必要なこともあります。

重大な事故や水に溺れたような緊急の場合、心臓マッサージを行いますが、Nuss 手術を受けたあとでは心臓の前にバーがあるため、有効な心臓マッサージは期待できません。しかし、このような場合は緊急事態ですので、出来る範囲の救命処置は行う必要があります。また、AED(心臓の電気ショック装置)は使用出来ますが、胸に貼るバッドは心臓の前と背後につけてください。

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Q11 バーを抜く手術は?

Nuss手術からバーを抜くまでの期間については、基本的に3年以上を予定しています。2年で抜くこともありますが、できれば長く入れていた方が胸の形が安定して維持されます。ただし、成長によりバーがきつくなることもあります。あるいは胸の痛みがでることもあります。学業やスポーツで予定通りにならないこともあります。そのようなときには最低2年入れて抜去します。成長の過程でバーがきつくなったら、早期に抜去すると再発の心配があるため、途中でバーの曲がりを調整して肋骨の圧迫を解除する手術を行うこともあります。年齢が低い時(6、7歳の頃)にNuss手術を受けた方は、できれば10歳になるまで入れておきたいと思います。

バーを抜く手術は2泊3日の入院が基本です。ほとんどの方は術後にすぐ元気になりますし、術後に体を動かすこともあまり問題とはなりません。傷の周囲の痛みは数日残りますが、痛み止めの薬で十分なことが多いので、あまり心配されることはないと思います。術後1 週間すれば、どのようなスポーツも問題なくできます。

バーを抜く手術は初回手術と同じ傷を開きます。バーの端は周囲の組織が癒着していますので、ここをきれいにはずして、バーの曲りをのばします。肋骨と接しているところでは、骨がバーの周りを取り囲むように増殖してくることがあります。その時は余分な骨を削ることがあります。バーの中央部はツルツルしていますので、すべるように動きます。右か左に引っ張ると、バーは比較的簡単に抜けます。手術の合併症としては出血と気胸があります。幸い、これまでに重大な合併症で入院が長期になった人はおりません。

抜いたあとの外来受診の際、胸部CTの検査をします。それ以降は1年に1回の外来受診をしていただきます。

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Q12 成人の漏斗胸は?

小児とは15歳までの年齢をいいます。16歳以上を成人とすれば、私たちのこれまでの手術経験は3分の1が成人です。最近では約半数が成人です。高校生、大学生から一般社会人まで、最高50歳代の方にも手術を行なっています。もともとNuss手術は小児を対象として開発されました。Nuss先生は小児外科の専門医であり、患者さんはほとんどが小児だったからです。私も最初はこどもの漏斗胸手術から始まりました。その内に手術を希望する方の年齢が徐々に高くなってきました。

Nuss手術が行われるようになったのは15、6年前です。それ以前から漏斗胸の患者さんはいて、従来の手術は受けずに成人になった方もたくさんおられます。そのような方がこの新しい手術を知り、手術を受けたいといって来られるようになりました。

成人は小児とは異なり、骨格が硬くなっています。そのため、凹んだ胸骨を持ち上げるのに大きな力が必要です。これは術後に胸の負担(痛み)が小児より大きいということになります。小学校のこどもでは術後1カ月すれば、元気に走ってもあまり胸が痛いということはありません。それが成人では術後2カ月かかります。

骨が硬いと十分に凹みを持ち上げることが難しくなります。凹みの範囲も広くなります。そのため、小児ではバーは1本ですむことが多いですが、成人では2本入れることが多いです。

胸骨を持ち上げる時に、変形した肋軟骨に切開をいれると胸骨は持ち上がりやすくなります。持ち上げるところをわざと折れ曲がりやすくします。それにより、Nuss法を行う際に小児と同じように凹みの持ち上がりが十分にできます。小さい手術の傷(縦に約3〜4cm)が胸の正面にできます。それでも構わないという方にこの手術を行なっています。詳しいことは当院の外来に来られた時に説明したいと思います。

手術前と手術後1週間

(手術前と手術後1週間 胸部正面の傷、約3cmと側面の傷、約4cmにはテープを貼っています)

成人女性の漏斗胸について

漏斗胸は女性には少ないのですが、それでも胸の形で悩んでいる方はたくさんおられます。女性では胸の変形は非常に大きな問題です。胸の中央が軽く凹んでいるのは美容上あまり大きな影響はでません。凹みが大きい場合はやはり問題です。また、右と左の形が異なる場合(非対称性変形)では、乳房の形が異なってきますので、美容上非常に大きな問題となります。非対称性変形ではほとんどの場合、右の胸部が強く凹み、右の乳房が小さくみえます。この場合、乳房の形を良くするための美容形成はうまくいきません。やはり骨格の変形を改善することが最も重要です。

成人女性のNuss手術をこれまで多数行なってきました。手術の傷を目立たない工夫(胸の内側から肋軟骨を切開する方法)や、胸全体の形を良くする方法があります。その経験から、その人それぞれの状態に合わせて手術の方法を考えて治療を行なっていきます。

非対称性変形の漏斗胸

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Q13 川崎医大の手術実績

植村が川崎医科大学小児外科に赴任したのは平成16年です。その前の岩国医療センターで約200例の手術を行いました。川崎医科大学小児外科では平成28年12月までに958例の手術を行なっています。最近は年齢が高い方、遠方の方が増えています。

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Q14 遠方から受診することは出来ますか?

関西地方の方のために兵庫県西宮市の西宮渡辺心臓血管センターに「漏斗胸専門外来」を作りました。こちらでは植村が出向いて術前、術後の診療を致します。詳しくはpedsurg@med.kawasaki-m.ac.jpに連絡下さい。

当院で手術を受ける患者さんは遠方から来られる方がたくさんおります。(図参照)遠方の方は術前の受診と術後の受診が心配になると思います。手術をすることが決まれば、入院と手術の予定を決め、手術前の検査を行います。半日の外来受診でそれができます。遠方の方はメールで事務的な連絡は可能ですので、下記のアドレスに連絡をしてください。入院の予定などはそれで連絡することは可能です。手術自体の相談に関してはやはり外来で時間をとってお話をすることになります。

術後の受診は退院後1カ月、3カ月で来ていただきます。その後はバーを抜くまで半年毎の受診になります。バーを抜いた後は1 年毎に受診していただきます。

連絡方法

遠方の方は初診でも病院代表(086-462-1111)に電話して外来予約ができます。どうしても当院小児外科に連絡したい方はメールでお願いします。

pedsurg@med.kawasaki-m.ac.jp

返事はできるだけ早くしますが、数日かかることもあります。

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最後に:漏斗胸患者様へ

漏斗胸で手術を考えている方に、当院の小児外科で行なっている治療について参考になるようなことを書きました。このホームページを見て遠方からも多くの患者さんが来られます。手術を受けて良かったという声もたくさんいただいています。私たちは漏斗胸で悩んでいる方の声を聞きながら、漏斗胸が良くなるよう日々努力をしています。

同じ漏斗胸でも一人一人の凹みの状態は違いますし、年齢が違っても治療法は異なります。そのため、手術はそれぞれの人に合ったように工夫しています。

多くのバリエーションの中から最適な治療法を行うには数多くの経験が必要です。私たちの手術経験は850例以上と日本有数です(平成27年までのデータ)。この経験に基づき、患者さんとの信頼関係を大切にしながら一緒に治療を進めていきたいと思います。