漏斗胸
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小児外科の病気

漏斗胸




≪漏斗胸≫

漏斗胸とは前胸部が落ち込んでいる病気です。真ん中が陥凹している人もいますし、胸の片方がつよくへこみ、右と左の胸の形が異なることもあります。胸の凹みの程度は様々で、ごく軽度のこともあり、非常に強く凹む人もいます。ほとんどの場合、乳幼児期からこのような症状がありますが、小学生の頃にはあまり気にならなかったのが、中学生の頃にそれが目立ってくることもあります。


多くの場合、胸の凹みは進行すると言われています。ただ、まれに3歳以下で見つかった人の中には6歳頃までに改善してきたということもあるようです。男の子が女の子より3倍くらい多くみられます。親子や兄弟、親戚に同じような病気がみられることもあります。


前胸部が陥凹していると、胸部の内臓(心臓や肺)に問題がおこることがあります。特に幼児期には肺炎をおこしやすかったり、風邪をひくとゼーゼーいいやすかったりします。小学校に入る頃にはほとんどの人は元気になることが多いので、内臓には影響はないと言われてきました。しかし、外見的に胸が凹んでいると本人の心に大きな問題を残すこともあります。

内臓の問題ですが、呼吸の機能をみる検査では肺活量が少ない人が多いです。胸が陥凹して肺を圧迫しているためと思われます。心臓への影響ですが、最近の研究で心臓の弁(僧帽弁や三尖弁、心室と心房の間にある弁)が変形し、血液の逆流や弁の逸脱を示すこともあります。

また、心臓も圧迫されているため、心拍出量(心臓が1回の収縮で血液を送り出す量)が少なくなるということがわかってきました。


≪漏斗胸の原因≫

この病気の原因はまだ突き止められておりません。肋骨や肋軟骨の発育異常とか、肋軟骨が内向きに長く発育したためとも言われています。私の個人的な見解ですが、この病気のお子さまは肋骨や肋軟骨がふつうの人より柔らかく、息を吸うたびに少しずつ前胸部が落ち込んで、だんだん凹みが明らかになってくるのではないかと思います。これもやはり、肋骨の発育異常と言えるかも知れません。

この病気のお子さまに入眠時に「いびき」をかく人が多いことも知られています。これは扁桃腺やアデノイドが大きいためで、それにより、空気の通りが悪くなり、息を吸うとき、より一層大きな力が必要となり、それによりみずおちが凹んでしまうからです。

もし、扁桃腺やアデノイドが大きく、漏斗胸もあるというお子さまの場合、(多くは小学校に入るまでのお子さまです)まず、耳鼻科で検診を受けることをおすすめします。扁桃腺やアデノイドをとる手術の後1年以上経過をみると、漏斗胸が改善することもあります。

胸部の凹みが強く、それにより呼吸器の症状がある時は手術が必要でしょう。また、心臓の超音波検査で異常があると言われた人も手術が必要でしょう。

それ以外の人はどうかと言いますと、胸部CTの検査(レントゲン検査の一種)で凹みの程度が強いことがわかれば、将来にわたり呼吸、心臓の影響がでることが予想されます。

また、小さいお子さまではあまり気にしないことがありますが、大人になっても胸が凹んでいますと、それが心に大きな負担となってしまうこともあります。そのような場合、成人になった方でも手術は可能です。

基本的には凹んだ胸骨を持ち上げる手術(胸骨挙上術)を行います。これにはいろんな種類があります。

内側に曲がった肋軟骨を切除したり、胸骨を切り離してひっくり返す方法など。これらの方法は長い歴史があります。ただ、手術時間が長いとか、傷が胸の正面にできるとか、術後に再度陥凹がみられるとかの問題があります。

最近ではNuss(ナス)法が最もよく行われるようになってきました。この手術は小さい傷ですみ、術後の胸の形がよくなるため、急速に広がりつつあります。


この図はNuss法が初めて論文に発表されたときに用いられた手術のイラストです。

胸の内側に入れた金属のバー、pectus barで凹んだ胸骨を持ち上げている所を示しています。


この写真は漏斗胸手術、術前と術後1ヶ月時のものです。胸の両側に小さい傷がみえます。胸の正面には傷は残りません。

多くの手術後経過をみてみますと、手術成績が最もいいのは小学校低学年(6歳から10歳頃)です。この時期、手術がやりやすく、術後の胸の形もよくなるからです。

学校に入って、集団生活を送るようになると、胸部の異常がお子さまに心理的な負担をかけることもあり、そういったことを予防する意味もあります。それ以前でも肺炎を繰り返すといった症状があれば、3歳以上なら手術をする必要があるでしょう。なかには大きくなって胸の凹みが強くなってきたという人もいます。そういう人は中学生以降になっても手術を受けることもできます。私たちの病院では40歳台までの人にNuss手術の経験があります。

最近では成人の手術症例が増えてきました。成人の手術では骨が硬くなり、小児とは手術の方法が少し異なりますが、基本的には同じ方法で手術ができ、術後の成績も向上しております。成人でもNuss法による手術は可能です。

≪手術をしたらどうなるの?≫

この写真は同じ患者さまの術前、術後のレントゲン写真です。

左の術前では白い点線で示されるように、胸骨と背骨の間が狭くなっています。術後は胸の凹みがペクタスバーで持ち上げられているのがよくわかります。

Nuss法の手術では手術直後から胸が持ち上がってきます。これは凹んだ胸骨を内側からステンレスの板(ペクタスバー)で持ち上げるからです。これを2年から3年入れておき、その後に抜きます。その間に凹んだ胸部の胸骨や肋骨は矯正され、陥凹は治癒します。

手術してしばらくは激しい運動は控えますが、3ヶ月もすればふつうにスポーツをすることができるようになります。してはいけないことは柔道やラグビーなど胸を強く打ったりすることは避けてください。特に中学生、高校生ではクラブ活動に多少の制限が必要なことがあります。

心理学的にもいい影響がでることが知られています。性格も活発になったり、積極的になったりするようです。なかには食欲がでてきたとか、風邪をひきにくくなったという人もいます。手術には合併症という問題もやはりでてきます。どのような問題があるのか、詳しくは最後の方を読んでください。


≪手術をしなかったらどうなるの?≫

中学生以上の漏斗胸の人は、たいてい日常生活に問題はありません。胸の凹みさえ気にしなければ、元気に生活できます。しかし、人前で裸になることは絶対にしたくないという人が多いです。また、激しい運動をすると息切れ、動悸、胸が苦しくなることもあります。

漏斗胸の患者さまで、40歳を越してから心臓の病気になる人も出ています。このようなことはこれまでよく知られておりませんでした。どのような人がそのような心臓の問題をおこすのか、私たちの病院の循環器科で現在検討中です。

私(植村 貞繁)は平成10年からNuss法で漏斗胸の手術を行ってきました。

この手術を開発したNuss先生のところでこの手術を研修し、わが国で最も早く、この手術を取り入れました。

Nuss先生はアメリカのバージニア州、ノーフォークという街の小児外科医です。Nuss先生から直接この手術の手ほどきを受けてきました。

これまでの手術件数

2008年3月末でNuss法の手術数は449件になります。(2004年10月までの岩国医療センターでの症例を含む)

当院では2004年(平成16年)11月から2008年(平成20年)3月までの3年5ヶ月間で 239例です。

日本で一番多くのNuss手術を行っている施設の一つです。

手術時年齢は2歳から46歳までです。5歳、6歳が最も多く、12歳、13歳にもうひとつのピークがあります。最近は高校生以上の成人に対する手術が増えています。

成人の漏斗胸ではNuss法による手術ができるかどうか、よく聞かれます。このグラフにあるように、16歳以上の方も最近では多く手術をするようになりました。最高齢の方は46歳でした。結論から申し上げれば、成人の方でもNuss法による手術は可能です。成人では子供と違って骨が硬いため、手術法に多少の工夫が必要です。

手術時間

手術時間は平均して約40分(1本のバーを入れる場合)で、出血量はほとんど問題になりません。輸血を行ったことはありません。

10歳までの人には一本のペクタスバーで十分ですが、10歳以上になると2本いれて胸部を持ち上げることもあります。2本のバーを入れる手術は時間が長くなります(平均100分)。

入院期間

入院期間は10日から2週間です。ほとんどの人は手術をして1週間で元気になり退院できるようになりますが、遠方から来られる人が多く、退院しても安心して過ごすことができるまで無理はしないようにしています。年齢が高くなるほど日常生活にもどるまでの時間が長くなります。


この写真は同じ患者さまで左は手術前、右は術後2年でバーを抜いた後にとった胸部のCTです。

胸の形は自然な丸みを帯びています。心臓の形も術前には平たく押されているのが、術後には丸くなり、正常の形になっています。

準備中につき、しばらくお待ち下さい。

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