川崎医科大学 渡辺 洋子
(平成17年度 受賞者)

DNA多型

 DNA多型という語を聞いたことのある方も多いのではないかと思います。DNA多型は遺伝子をつくっている塩基配列の変化が遺伝的多様性をもたらすことをいい,その結果は様々なところで個人差として現れてきます。お酒を「飲める人」と「飲めない人」の差がDNA多型によるものであることはよく知られています。もう一つ身近な例で,煙草に対する嗜好にもDNA多型が関わっているのではないかという話があります。煙草の有効成分であるニコチンは,CYP2A6とよばれる酵素の働きで分解されますが,この酵素をつくる元となる遺伝子にやはりDNA多型があるのです。CYP2A6が完全に働くと,ニコチンは体内で速やかに分解され,作用をもたない物質に変化します。一方,CYP2A6遺伝子には全くその活性を現すことのできない欠損型があり,欠損型の保有者はニコチンを体内に入れるとそれを分解できないので,長時間ニコチンが体内をめぐるということになります。“ニコチン切れ”になるためにそわそわと落ち着かなくなる(と思っている)喫煙者には羨ましいような話ですが,その反面,ニコチンの複雑な神経刺激作用に長時間さらされるので,神経の図太さもなければならないということになります。数年前,私はCYP2A6遺伝子のDNA多型と喫煙習慣,ストレスなどとの関連をみる研究に関わらせてもらう機会がありました。喫煙をする人でCYP2A6欠損型の人は, 1日に吸う煙草の本数は少ないようだと思われる結果が得られましたが,さすがに人の嗜好を一つの遺伝子で説明するのは難しく,欠損型の持ち主でも結構な喫煙者もいるし,CYP2A6がフルに働く多型をもった人でも喫煙しない人はしないのです。喫煙習慣にはその人の性格とか信念とか生活環境とか様々な要因が働いているだろうというのは想像にかたくありません。ところで,私はかつて喫煙者でした。学生のとき興味本位で煙草を口にし,これはなかなか悪くないと思い,そのまま喫煙者の仲間入りをしたのです。年を経て手術を要するような病気をした時に,煙草を吸っている人は麻酔から覚めたあと非常に苦しい思いをすると聞かされ,怖くなって禁煙しました。その後も禁煙は持続していますが,ここで一服できたら・・・と思うことは今でもあります。禁煙するにも,いろいろと性格や環境が関わってくるようです。私は,CYP2A6欠損型の持ち主ではありません。
 さて,私は3年前に「イソフラボンアグリコンの骨代謝に及ぼす影響」というテーマで当振興会の教育研究助成金をいただきました。骨代謝に関与する遺伝子のDNA多型と,骨量増加作用があると考えられている大豆成分のイソフラボンの作用との関連を検討しています。骨量に影響する遺伝的素因を明らかにできればと思っています。
[平成20年11月7日掲載]