川崎医科大学 宮地禎幸
(平成18年度 受賞者)

性ホルモンとアンチエイジング

 私は3年前の赴任早々に当振興会から「ヒト精巣セミノーマ細胞株(JKT-1)の増殖にアンドロゲンが与える影響とアンドロゲン受容体の関与に関する基礎的検討」の研究助成を賜りました。赴任前は地方の中核病院に8年間勤務し、臨床一筋に過ごしていましたが、あえて基礎的なテーマで応募しました。それは当科で樹立した世界で唯一の精巣腫瘍細胞株JKT-1をせっかく川崎医科大学に勤務することになったので扱ってみたいと思ったからです。
 テストステロンは精巣間質のLeydig細胞から分泌され、精細管上皮のSertoli細胞に作用し、それを介して生殖細胞は増殖・分化します。つまり精巣はアンドロゲン産生臓器であり同時に標的臓器です。また近年環境ホルモン(エストロゲン類似物質)による精巣腫瘍の増加が指摘されています。精巣腫瘍におけるエストロゲンならびその受容体の研究はいくつかありますがアンドロゲンについてはほとんど調べられていません。
 ほ乳類では雌は妊娠、出産、哺乳、子の養育、保護を行うために種として優遇されていて、エストロゲンによって守られているとされています。実際ヒトにおいても女性は更年期から閉経期に移行すると、急性心血管障害、骨量減少、認知障害のリスクが著しく増加し、メタボリックシンドロームの有病率も女性は50歳代から上昇するとされています。さらにエストロゲンは発ガンの抑制という作用があり、閉経期以降は癌発生の増加が著明です。
 一方、アンドロゲンはエストロゲンと逆の作用をするとされていますが、前立腺癌におけるアンドロゲン除去療法は男性でもほてり、うつ、骨量減少など女性更年期と同様の症状を引き起こします。つまりエストロゲンとアンドロゲンは臓器や部位によって反対の作用をしたり、同じ作用をしたりするということです。また最近では、更年期は女性特有のものではなく男性にも存在するとされています。このように性ホルモンは性の分化・生殖だけでなく、ほ乳類が生きて行くために必要な多様な役割を担っています。つまり、長寿になった我々人類は性ホルモンの低下による様々な健康障害に直面しているわけです。
 助成授与後、私は長らく離れていた基礎的研究を再開しました。久し振りの実験機器の操作や細胞培養の扱いなど短期間で効率よくセンター職員に指導いただき、10年前の自分が蘇ったような感じです。また、20歳以上も離れた学生と講義、臨床実習、飲み会で接するようになり、気持ちだけでも若くなりました。これで忍びつつある男性更年期が逃げてくれればと思い過ごしています。

[平成21年12月22日掲載]