川崎医療福祉大学 茅野 功
(平成19年度 受賞者)

「水を飲む」というリスク

  我々の身近な電化製品から出ている電磁界(電磁波)が、生体にどのような影響を与えるのか。この研究を続けていると、「携帯電話で毎日長時間通話して問題はないか。」「購入希望の土地の近くに高圧電線があるが影響はないか。」等様々な質問を受けます。電磁界は目に見えない存在ですから不安になるのも当然で、何しろ私自身が新居へ電磁調理器を導入するか否かが、この研究の根本となるものでした。
  電磁界の生体影響に関する研究は古くから世界中で行われており、その実績を元にWHOの環境保健基準計画の一環として国際非電離放射線防護委員会から電磁界の人体曝露を制限するガイドラインが設けられ、日本でも電波防護指針が総務省より策定されています。殆どの電化製品や高圧電線、無線基地局はこの指針に基づいて販売・設置がなされていますから、上述の質問に対して今風に言えば「全然大丈夫ですよ。」と答えればよいのですが、これがなかなか難しいところがあります。
  我々の日常生活を支える「便利」の裏側にはリスクが必ず存在します。例えば、生活に便利で不可欠な水道水は、浄化・殺菌のため僅かな化学成分を含んでいます。この成分は発ガン作用があるとされているため、水道水に含むこの成分は生涯発ガンリスクが約10万分の1以下となるよう規制されているといいます。逆手に取れば、水を飲むだけで約10万人に1人が生涯のうちでガンを発症するリスクを含むことになります。また、電化製品から放射される電磁界にも同じような話があり、「0.4マイクロテスラの中間周波磁界曝露は小児白血病のリスクを倍にする」という疫学研究結果があります。この話を「水を飲むとガンになる」とか「中間周波磁界を浴びると小児白血病になる」とだけ記憶してしまうことは大変な誤解であり、実際にはこれらのリスクは十分に低く、日本での小児白血病の発症例から考慮すると、生涯の小児白血病発症リスクは水を飲んで発ガンするリスクよりもさらに10分の1以下となります。このように単にリスクを恐れるのではなく、そのリスクの程度を十分に理解して過剰な対応をしないよう知識を身に付け、日常の「便利」を有効に活用すべきだと考えています。
  さて、話を冒頭の質問の回答に戻しますと、「リスクは極めて低いが0ではありません。病は気からというので、気になるなら止めたほうがいいのでは。」と答えることにしています。全く以て研究者らしくない回答かもしれませんが、電磁界の生体影響に関する新しい研究結果が発表される度に質問者へ最新情報を伝える「リスクコミュニケーション」を行うことこそが私の役割だと思い、これからも続けていきたいと考えています。
[平成21年1月6日掲載]