岡山大学大学院 永坂岳司
(平成19年度 受賞者)

タマゴが先か?ニワトリが先か?

 この度は平成19年度教育研究助成を賜りましたことを深く感謝いたします。
 私は消化器癌における主要なDNA 修飾機構であるシトシン5 位におけるDNA メチル化の研究を行っています。メチル化DNA は染色体上に一定のパターンを形成しており,そのパターンによって生物機能を果たしていると考えられています。このパターンの異常はがん細胞に認められる現象でもあります。さて、DNA配列にあるCpGシトシンのメチル化及びヒストンの翻訳後修飾は遺伝子発現に関する重要な情報を我々に提示してくれる暗号(Code) であるとも言えます。これらCodeは発生分化の過程で適切な情報を細胞に示すとされています。その一方で, こうしたCodeの異常は転写制御機構の破綻につながり, 癌をはじめとするさまざまな疾患に関連していることが報告されています。哺乳類の遺伝子において、メチル化はCpG配列のシトシンにのみ付加されています。そして、メチル化は癌細胞のゲノムグローバルなシトシン5 位におけるDNA メチル化量の低下と癌抑制遺伝子等のプロモーター領域の異常な高メチル化が言われています。今のところ, どのような変化がこの現象を引き起こすかは明らかにされていません。しかしながら、近年、少しずつ新しい知見が集積されてきています。
 ここで、問題です。
 プロモーター領域におけるメチル化異常の本質は、その遺伝子の発現を抑制するところにあります。すなわち、プロモーター領域のDNAメチル化により、遺伝子発現の変化が起こります。メチル化が付加された後に遺伝子の発現変化が起こるのでしょうか? それとも、遺伝子の発現変化が起きた後に、メチル化が付加されるのでしょうか?
 最近の報告では、Polycomb repressive complex 2 (PRC2) に関与する遺伝子群におけるメチル化は、DNAメチル化の前にヒストンの翻訳後修飾の変化が認められるようです。すなわち、DNAメチル化は、遺伝子発現の変化のあとに付けられる目印なのかもしれません。
 このように生物学的な興味は尽きませんが、DNAメチル化は、その生物学的意義がどうであれ、がん細胞と正常細胞を区別することが可能な‘目印’としての意味はありそうです。
 このような視点から、DNAメチル化を遺伝子診断のバイオマーカーとして使用できないか?
 日々悪戦苦闘している毎日です。

[平成19年12月25日掲載]