川崎医科大学 横山 光彦
(平成20年度 受賞者)

難治性過活動膀胱に対する取り組み

 平成20年度教育研究助成を賜り、誠にありがとうございました。この場をお借りして選考委員の先生方および関係者の方々に厚く御礼申し上げます。早いもので、川崎医科大学に赴任して6年目となりました。平成2年に岡山大学を卒業し、泌尿器科に入局、その後6年ほど市中病院で研修を行い、帰局後学位取得のため排尿障害関係の仕事に取り組むことになりました。平成10年から12年までの2年間米国ピッツバーグ大学での研究生活を満喫し、帰国後は主に、臨床研究を中心に仕事を続けています。もともと脊髄疾患を中心とした神経因性膀胱が主な対象でしたが、最近は抗コリン薬の新薬が多数上市され、過活動膀胱という新たな疾患概念とともに非神経因性の難治性過活動膀胱患者さんを扱うことが増えてきました。
 正常なヒト膀胱は通常、Aδ線維という有髄神経により尿意を感じますが、脊髄に障害を来たすと神経の再構築が起こり無髄C線維により尿意を感じるようになります。1990年頃より脊髄疾患に伴う難治性の尿失禁患者さんに対してC線維に対する特異的な神経毒のカプサイシンやレジニフェラトキシンという薬の膀胱内注入療法の有用性が報告されるようになりました。我々のグループも本邦で初めてレジニフェラトキシン膀胱注入の有用性の報告を行い、さらに、非神経因性の過活動膀胱の患者さんに対してもニューロメーターで膀胱知覚をモニターリングし、その有用性の報告を行いました。それら治療でもコントロールできない難治性過活動膀胱患者さんも増え、次に取り組んだのがボツリヌ毒素膀胱壁内注入療法でした。ボツリヌス毒素は、神経筋接合部に作用し、アセチルコリン放出を阻害し、筋肉の麻痺を起こします。過活動膀胱に対する臨床応用は、1999年に欧米で報告されたのが始まりです。私も2003年から岡山大学病原細菌学講座の小熊教授と共同研究で治療を開始し、現在までに60名余りの患者さんに治療を行っています。その治療数は現時点で本邦最多と自負しています。さらに知覚過敏が主体の尿失禁と膀胱平滑筋の過活動が主体の運動性の尿失禁、また中枢性、末梢性との鑑別ができないかと尿中の神経成長因子(NGF)を測定し、治療のテーラーメイド化を考え、これが今回の受賞のきっかけとなりました。尿中NGFは疾患特異性が低いのが難点ですが、病態に応じて増減します。現在も尿中NGF測定を続け、有効例、無効例との検討を行っています。たかが膀胱、されど膀胱、何事も奥は深いと思う今日この頃です。


[平成23年5月26日掲載]