川崎医科大学 山内 明
(平成23年度 受賞者)

がん転移能の新しい評価方法を求めて

 この度は平成23年度(財)川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜りたいへん光栄に存じます。ご関係の方々に深く感謝申し上げます。
 現在、本研究助成を活用して、試験管内でのがん細胞遊走能および浸潤能を評価する方法の確立を目指して日々格闘しております。がん細胞の遊走・浸潤能は、がんの悪性度と密接に関連しており、これを制御することができれば、がん転移によって命を落とすことを防ぐことが可能になると考えられます。つまり、転移を無くすことによってがんを局所に留まらせ、あとは何らかの方法で消滅させる(手術や放射線療法など)ことによって、がんを克服しようという戦略です。現在のがん治療においては、がん摘出手術後も転移を心配して大量の抗がん剤を投与することがありますが、転移のリスクを評価することができるだけでも、より効果的な治療につながる可能性があります。
 がんの局所浸潤や転移として、腹腔内播種、血行性・リンパ行性転移などが古くから知られており、これらは長らくがん細胞の走化性と関連すると考えられていましたが、その分子機序は長らく未解明でした。2001年、Müllerらによって、生体内のサイトカインの一種ケモカインががん転移に関与しているという直接的証拠が示され、浸潤・転移の機序解明に新たな道筋が示されました(Nature, 410, 50-56)。その後の多くの報告から、ある種のがんの転移にはケモカイン−ケモカイン受容体系が関与していることが明らかになっています。実際、動物モデルでは、ケモカインに対する抗体や阻害剤によって転移が抑制されるとの報告もあります。しかし実際に患者さんに効くがん転移抑制剤の実用化にはまだまだ多くの課題があります。
 がん転移阻害剤の開発においてネックになっているのは、転移活性、すなわちがん細胞走化性の測定の難しさにあると思われます。私はこれまで革新的な細胞機能の評価技術を採用した細胞動態解析装置“TAXIScan”の開発に携わった経緯もあり、白血球の細胞走化性の評価方法を研究して参りました。この方法では従来の千分の一の量のサンプルから遊走細胞数だけでなく細胞の機能や形態について格段に多い情報が得られます。この成果を応用して、がん細胞の転移能の新しい評価方法を検討しようと考えております。この装置を用いた細胞機能評価法は、今後、基礎研究や診断技術、治療薬の開発への応用など、広い分野で役に立つものと考えています。

[平成23年11月21日掲載]