川崎医科大学 片瀬 直樹
(平成25年度 受賞者)

DKK3遺伝子の機能解明を目指して

 このたびは公益財団法人 川崎医学・医療福祉学振興会 平成25年度教育研究助成を賜り、誠に光栄に存じます。選考委員の先生方および関係者の方々に厚く御礼申し上げます。
 私の研究テーマは「頭頸部扁平上皮癌におけるDKK3遺伝子の機能解析」です。頭頸部(鼻腔、口腔、咽頭、喉頭)の悪性腫瘍の90%以上が扁平上皮癌で、そのうち口腔癌が35%以上を占めます。扁平上皮癌の治療では、舌や顎骨が切除されることも多く、咀嚼や発音、審美面で患者のQOL低下が問題となります。そのため、早期発見や低侵襲性治療の開発につながる基礎研究が求められていますが、現在のところ扁平上皮癌の発生や進展に関わる因子については未だ明らかではありません。
 私は、ヘテロ接合性消失解析によって扁平上皮癌で特異的に生じている染色体上の欠失部位を検索し、重要な遺伝子としてDKK3に注目しました。DKK3は別名をreduced expression in cancer (REIC)といい、癌で遺伝子発現が低下していることと、腫瘍細胞に強制発現させるとアポトーシスを誘導することから、強力な癌抑制遺伝子と考えられています。しかし、頭頸部扁平上皮癌では胃癌や大腸癌とは全く異なり、DKK3は大多数の症例で発現しており、しかも発現群は予後不良であるという驚くべき結果が得られています。さらに検討を加えたところ、扁平上皮癌細胞でDKK3遺伝子発現をノックダウンすると、細胞の浸潤性や遊走性が低下することが明らかとなりました。これらの結果からは、頭頸部扁平上皮癌ではDKK3が他の臓器の癌とは異なった機能を発揮している可能性が考えられます。現在は、より詳細な機能解析と関連するシグナルの同定を目指して研究を進めています。
 私は歯科医師として頭頸部癌研究に携わってきましたが、このたび発生学教室に移ったことは重要な転機となりました。DKKファミリーの本来的な機能は、初期発生における体軸の決定や四肢パターンの形成、内臓器官の形成に決定的な役割を果たすWNTシグナルの抑制因子であるからです。ここから、DKK3も発生における役割があると予想されますが、DKK3にはWNTシグナル制御能力がない可能性も示唆されており、実際の機能については未だ不明です。
 今後も研究を続け、DKK3の本質的な機能を明らかにすること、そして治療に繋がる仕事にすることが私の目標です。


[平成25年10月28日掲載]