川崎医療短期大学 上野 浩司
(平成27年度 受賞者)

神経回路の自由な再編を目指して

 この度は公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜り、誠に有難うございました。選考委員会の先生方および、関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
 私の研究テーマは「前頭前野における神経細胞周囲網の機能解析」です。そもそも神経細胞周囲網PNN(Perineuronal nets)とは中枢神経系において一部のニューロンの細胞体、樹状突起を取り囲む網目状の構造物であります。PNNは1893年にイタリアの内科医でありノーベル賞受賞者であるCamillo Golgiによって発見されましたが、スペインの神経解剖学者でありノーベル賞受賞者のRamon y Cajalの「これは染色した際に生じた人工産物である」という影響力のある言葉でPNN研究は一気に衰退してしまいました。近年になり、PNNの存在が確認されましたが、PNNの主な機能や発現分布、構成要素等はほとんど分かっていないというのが現状です。
 PNNは脳の臨界期が終了する頃に発現してくることが分かっています。すなわち、PNNは神経可塑性を調整しており、PNNが発現すると脳内の神経回路網は変化できなくなるという特徴を持っています。PNNの主な構成要素はヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのレクチカン(アグリカン、ブレビカン等)です。PNNはGABAニューロンの一種であるパルブアルブミン含有ニューロン周囲に形成されると考えられています。
 PNNは主に臨界期に関わると考えられてきたため、視覚野や体性感覚野でのみ研究が進んでいます。しかし、海馬や前頭前野でもPNNの発現はみられるが、そこでの研究は進んでいません。そこで私は高次機能を持つ前頭前野でのPNNの発現と機能を調べ、脳損傷後の脳の再生や恐怖記憶の消去、統合失調症やアルツハイマー病(PNN形成異常と関係する)の治療薬の開発に繋げたいと考えて研究を進めています。
 研究を進めた結果、マウス前頭前野でもPNNが発現しているが、他の脳領域と異なりパルブアルブミン含有ニューロンではない他のニューロンに主に発現しており、構成要素としてアグリカンを持たないことが明確になりました。本研究はスタートしたばかりでありますが、新規性のある成果が得られつつあります。得られた成果を臨床に応用出来る日を目指して、今後も研究に取り組んでいきたいと考えております。

[平成28年5月9日掲載]