川崎医療福祉大学 鈴木 啓太
(平成28年度 受賞者)

反復末梢性磁気刺激を用いて脳卒中患者の筋萎縮予防を目指した試み

 このたびは公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜り、誠にありがとうございました。選考委員会の先生方および、関係者の皆様に深謝いたします。
 本研究課題で使用した反復末梢性磁気刺激装置という機械は、コイル内に電流を流し磁場を発生させることで、電磁誘導により生体内に渦電流を発生させ神経・筋を脱分極させる装置です。磁気刺激装置のリハビリテーション医療界での使用の歴史は浅く、まだ一般的に普及していないのが現状です。私が反復末梢性磁気刺激装置を研究で使用するようになったのは大学院生の頃です。その当時は中学生のとき以来数年ぶりに聞く「電磁誘導」という単語に戸惑いながらも、一般的に普及していない新しい装置に触れさせて頂けることに喜びを感じたことを覚えています。従来、リハビリテーション医療の分野における神経・筋の刺激には電気刺激が用いられてきました。しかしながら、電気刺激は刺激時に皮膚に存在する痛み受容器も同時に刺激するために痛みを伴いやすいという問題点を抱えていました。それに対して、磁気刺激では磁場が皮膚や皮下組織を透過するため、皮膚に存在する痛み受容器を刺激しにくく、痛みを伴いにくいという利点を有しています。これは患者が治療を継続するうえで、大変有益なことであると考えています。今後、反復末梢性磁気刺激を臨床場面へ普及させていくために、治療の有効性についての報告を積み重ねていくことが重要であると考えています。
 本研究課題では急性期の脳卒中患者の麻痺側大腿直筋に対して、筋萎縮予防を目的として反復末梢性磁気刺激を用いた介入を発症後の超早期から2週間実施致しました。その結果、大腿直筋の筋断面積の減少が抑制された症例と抑制できなかった症例がいらっしゃいました。それらの症例の身体的な特徴を比較したところ、皮下組織の厚さと運動麻痺の重症度が反復末梢性磁気刺激の効果に影響を与えた可能性が考えられました。この結果は脳卒中患者の筋萎縮予防を目的とした介入において、反復末梢性磁気刺激の適用を判断するための資料になると考えています。さらに本研究では非麻痺側でも発症後2週間で10%前後の筋断面積の減少が生じている結果となりました。この結果はリハビリテーション医療に携わる者に対して、脳卒中患者の筋萎縮は非麻痺側においても急速に進行するということを周知する非常に重要な知見であると考えております。
 今回の介入研究で特に興味深かった点としまして、急性期の脳卒中患者の麻痺側大腿四頭筋に対して、反復末梢性磁気刺激により筋収縮を誘発した際に、ほとんどの患者が「筋肉が動いて気持ちがいい」とおっしゃったことが挙げられます。今回の結果は筋の量的な変化については十分な効果が得られなかった結果となりましたが、患者の訴えにあったように不動状態にある筋を外的な刺激により収縮させることは筋の質的な変化を予防する点で意義深いものであることが考えられました。今後は筋の質的な評価も踏まえながら、筋萎縮予防の効果的な方法を模索することに加えて、反復末梢性磁気刺激の臨床応用に向けた検討を続けていきたいと考えております。

[平成29年5月15日掲載]